「あーっ!ビッチ先生!」
「うっさいわね!!ビッチじゃないって言ってるでしょう!」
 少しばかり足のついていない、ふわふわしたよく笑う生徒になつかれてから一週間。この間にもこの生徒はなにかと言うと絡んできた。休み時間は毎回のようにビッチ先生と言って話しかけてくる。どれだけあっちに行きなさいと言ってもえへへと笑って、必ず授業五分前まではいる。英語教えてーとてこてこ歩いてくるこの生徒は、嫌いでもないけれど特別好きってわけでもない。
「今日も英語、」
「あーもう、分かったわよ!分かんない所いいなさいよ」
「ここなんだけど、どうしてsがつくのかなって」
「まず見るのは主語よ。主語が三人称単数で、さらに一般動詞を使うときはsをつける。分かった?」
「分かったー!」
「分かりましたでしょ!あとsじゃなくてesの時もあるから」
「へへ、英語って難しいなあ」
またふにゃんとこっちまで脱力しそうな顔で笑う。そうだ。この生徒敬語も使わないのよね。一応やる気はなかったけど仮にも先生だし、ちゃんと言っておかなきゃいけないわ。
「わたし、英語がいっちばん嫌いで、全然分かんないんですよ」
英語以外はまぁまぁできるんだけどなあ、と呟いた。…この子、英語以外もかなり低くなかったような記憶があるのだけど。…まあいっか。
「だけど最近は英語楽しいの」
「へぇ、どうして」
「ビッチ先生が面白いから」
にこ、と効果音がつきそうな笑顔でそんなこと言われて、何だか言葉がでない。彼女は五分前だと言って、てこてこ行ってしまった。
…ま、まぁ、教師ってのも、暇潰しくらいには面白いわ。多分だけど!!