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「ねぇ、マスター?」
可愛くねだるように微笑みかけると、ビクッと肩を揺らした。
やだあ、こんなに可愛く話しかけてるのに、なんで怖がるのかしら!
「マスターは、私だけをみていればいいんですよ」
うふふ。目を細めて笑うとマスターは震えだした。ねぇ、さっきからなんでそんなに怖がってるんですか、マスター?ねえねえ、答えてくれないんですかぁ?
「だから、他の子なんかに浮気しちゃったら私、怖いことしちゃうかもしれないんです」
きっとその時がきたら私は私を止められません。マスターは動揺して、え?という。あ、やっと口を開いたんですね。
「たとえば、こんな風に」
マスターのパソコンに、"データのアンインストールを行いますか?"という表示が表れる。マスターは大きく目を見開き、マウスで×印を何度もクリックする。カチカチカチ、無機質な音が部屋に響いている。そんなことしても意味ないんですってば、マスター。パソコンを操るなんて簡単。だって私はパソコンに住んでるデータだもん。それはマスターが一番分かってるはずでしょう?100%、アンインストール完了しました、だって。データを消すのって、すごく簡単!私もこのくらい脆くあっけなく消え去るのか。
「な、なんで、アペンドを、」
ただのデータが消えただけだからいいじゃない。アペンドを使えば私の声のバリエーションが増えるらしいけど、そんなのいらないわ。私はマスターのためだけに歌いたいの。
「こうしたら、マスターは私だけを、「初音ミク」の中の私という個体だけをみてくれるでしょ」
うふふ、うんと可愛らしく笑った。