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祝福

pkmnSM / グラジオ
短篇になる予定だった話


 十二月といえば、多くの人は真っ白な雪や曇った空、または雲ひとつない抜けるように青い空に身が削がれるような冷えた空気、などを思い出すのではないだろうか。わたしには、どれも心当たりのないイメージだった。アローラで生まれて育ち、一度も外の世界に出たことがなかったからだった。ここアローラは、常夏の地方だ。だから何月だったとしても、アローラの人びとは避暑のことばかり考えている。
 多くの大陸では寒いらしい十二月がやってきた。生温い風と共に船着き場にやってきた大きな船からは、常夏の世界を楽しみたいと目を輝かせた人びとが毎日たくさん降りてくる。なんだって寒いところから来る人は、黒やネイビーの服を着がちなのだろう。太陽の熱をたっぷり吸収するというのに。避暑で頭がいっぱいの現地人には、理解ができないことだった。ぞろぞろと列をなしてアローラの地に足を踏み入れる十二月の人びとは、遠くから見ると蟻の大軍のようだった。しかしそれが段々近づいてくると、ひとりひとりが暗い服を着、表情はすっかり南国の顔をしているのである。わたしは、そんな顔と服装が一致していない来客に「アローラ」と微笑みかけ、レイを首に掛けてやる。観光客たちは、南国に迎え入れられたことを喜び、嬉しさを顔いっぱいに広げる。
 わたしはこれを一日、最低でも三百人に行う。そのほとんどが、一生のうちにこの瞬間しか出会わない人たちである。しかしひとりだけ、何度も再会をする知り合いがいた。列の中にプラチナブロンドの髪を見つけると、わたしは「あ」と思う。ああいう髪色の人は大勢居るというのに、「あ」と思うのはたったひとり、グラジオだけだった。順番が近づいてきて、そしてやっと彼の番になると、彼は決まってこう言うのだ。「観光じゃないから、それはいい」それとは、わたしが手にぶら下げているレイのこと。「夜、また電話する」 
 
 グラジオは、アローラの出ではなかった。四季のある地方から、親子三人で越してきた。しばらくはアローラだけで暮らしていたけれど、ポケモントレーナーとして、また将来家業を継ぐために、十五歳からは一年のほとんどをアローラの外で過ごしていた。でも、たまにこうして帰ってくる。それはいつも突然で、わたしに事前の連絡をすることもない。しかしなぜだか、いつもわたしが仕事をしている日をばっちり見定めて帰ってくるのだった。
 仕事を終わらせると、グラジオから電話がくるまでハウオリの市街地に出向いた。ショッピングモールはクーラーで冷え冷えとしており、少しでも定番の十二月感が出るように、赤と緑ときらきらしたオーナメントで飾り付けがされていた。アローラの人はみんな、窓の外でこんこんと降る雪を見ながら、あたたかな暖炉のそばで毛布に包まり、まどろみながらサンタクロースを待つような十二月に憧れているのだ。わたしはアパレル用品店を見て、書店を見て、最後に菓子店でショートブレッドクッキーを買った。店を出た時にグラジオから電話があって、いつも食事をする店で落ち合うことになった。
「別にいいのに」
 クッキーの包みを受け取ったグラジオは、気後れする様子でそう言った。グラジオにクッキーを渡すのは毎度のことで、グラジオから遠慮されるのも毎度のことだった。わたしがその遠慮を聞かなかったことにしているのは、グラジオは貰ったものを大事にしてくれるし、甘いクッキーが意外と嫌いじゃないことを知っているからだった。

これは三年前の十二月、Evergreenとしてサイトでの執筆活動を始めたときに書いたもの。構想を殆ど忘れたか、あまり練っていなかったかで、続きがどうなるのか自分でもわからない。ハウ短編の「祝福」と対になる存在のものを書けたら、ぐらいの着想しかなかったかも。何か始まりそうな導入になっていていいなと思うが、続きを書く予定は今のところない。

2023/07/05
創作メモ