小説 | ナノ
(ある日)
階段の中程に油を塗ると、予測通りそこを通ったあいつは階段から落ちた。
「あ、足、滑らせちゃった……」
あいつは強く打ち付けた脇腹を押さえて泣いた。
(2日後)
のんびりと校舎裏を歩くあいつの傍に教室の花瓶を落とした。
「花瓶、花瓶が……」
様子を見に行くと、腰を抜かしたあいつは震える声でそう言って泣いた。
(数日後)
サッカーボールをあいつの無防備な背中に向かって蹴った。
「どこから飛んできたんだろうね……痛い……」
あいつは背中を丸めて泣いた。
(次の日)
あいつは調理実習で玉ねぎを切って泣いた。
「うぅ、滲みた」
俺の陰に押し込んで、誰にも見せないようにした。
(1週間後)
(5日後)
(9日後)
(少し後)
(4日後)
「なんだか最近、運が悪いみたい」
「そうだね」
僕に目をつけられるなんて、最高に運が無いね。
「でも、そのぶん良いこともあったんだよ」
「……?」
返事の代わりになまえは恥ずかしそうにへにゃりと笑った。