小説 | ナノ


 朝からチラチラと鬱陶しく見てくると思ったら、昼休みにようやく俺のところに来て、ずいと、紙袋を押し付けてきた。

「お、おはよう!」
「ああ、うん」
「学ラン、ありがとう。無くて困ったよね、ごめんね」
「別に」
「それと昨日、お菓子作ったの。も、もしよかったら食べて」
(……。イライラする)
「本当にありがとう。じ、じゃ、またね……」

一松くん

「!」

ふにゃりと笑って、席に戻っていった。後ろから見てもわかるくらい真っ赤。

 家に帰って、紙袋に入っていたタッパーを兄弟に投げつけた。鋭い長男が女子にもらったとすぐに見抜いて、みんな根掘り葉掘り聞こうと俺を振り返ったが、その形相を見てサッと目を反らした。確実に何人か殺ってるよね、家に火つけそう、このお菓子まさか毒入り?……。などとヒソヒソと話し合っていた兄弟も、数分後には菓子を褒め称えていて、さらにイライラした。本人の前で食べてボロクソに貶してやればよかった。


×