小説 | ナノ
「私、一松くんが好きだよ」
死刑宣告だった。
なまえの透き通った瞳が真っ直ぐに俺を見つめる。好き。誰が。なまえが。誰を。俺を。冗談だと言って笑ってくれ。あの馬鹿みたいなふにゃふにゃ笑いを見る方が何倍もましだ。けれどどんなに祈ったって状況は変わらなかった。すっかり血の気の引いた頭ではもう何も考えられなくて、僕は心のままになまえに腕を伸ばしていた。
「……本当は」
胸ぐらを掴むと、なまえはびくりと震えた。
「本当は全部知っててからかってんだろ……。馬鹿にしてんだろ。裏で笑ってんだろ!」
散々泣かせた。散々怪我させた。打ち所が悪ければ死んでいたかもしれなかった。僕にはそんな資格ない。許されるわけない。
いっそあの夢のように罵ってほしかった。
罵って、殴って、ゴミでも見るような目で蔑めばいい。
「嫌がらせのつもりなら大成功だな」
なまえは泣きも笑いもせず僕を見つめ続けた。そして胸ぐらを掴む僕の手を小さな手でぎゅっと握った。
「……好きだよ…………」
ようやく口を開いたと思ったら、また。
「一松くん、最後にはいつも涙を拭いてくれたでしょう。すごく嬉しかったの。だからね、バカだと思うかもしれないけど、全部一松くんが仕組んだことだったとしても、それでも私は一松くんが好きなの」
力の弱まった僕の手をそっと外して、なまえは僕を抱き締めた。
「もう大丈夫だよ、一松くん」
恐る恐る、背中に手を回した。なまえの髪にぽたりと涙が落ちた。
151114~151123
END*