高遠 | ナノ
一階の食堂でスケジュールの説明が始まった。
「塾生は基本的に勝手に合宿所の外には出られません。外に出られるのは,朝の散歩の時間だけですのでこの時に気分転換は済ませてください。なお授業は連続して同じ教室で行うとマンネリ化して前頭葉が働きにくくなるので,一コマごとにスケジュールに合わせて教室を移動します」
上手くできてるなあ,と思いながらため息をついた。さて,十分もしないうちに授業が始まる。移動しなきゃね。
「では太陽荘での最初の授業を始めます。英語Uのチャプター1を開いて!」
よし,と気合いを入れて教科書を開く。教壇に立つのは赤尾先生。あのマスクにもだいぶ慣れてきたし,高遠さんに勉強できるとこを見せつけてやるんだから!
なんて思っていた頃が懐かしい。
(もうだめだ……)
頭が爆発しそう。夕飯もあれだけじゃ全っ然足りない。意識が遠退いてきた……。
少しでも手元のプリントを見ないように,口から魂を出しながら顔を上げてみんなの様子を見てみると,ちょうど金田一君が赤尾先生にクスと笑われているのが目に入った。
「目つけられてるね」
にやにやと隣の金田一君に耳打ちすると,彼は私の後ろを指差した。頭にハテナを浮かべて振り返ると,赤尾先生が至近距離で私のプリントを覗き込んでいて,反射的に叫びそうになった。それを必死で堪えた私を見て,赤尾先生は楽しげに笑って席から離れていく。
「お前もな」
先程の私のようににやにやと笑う金田一君に,私は口を尖らせた。
左目