高遠 | ナノ
森の入り口に差し掛かったところで,月光荘と太陽荘に分かれることになった。私は高遠さんが決めた通り赤尾先生と同じ太陽荘へ。
「……?」
挨拶も済ませてまた歩き始めたのだが,視線を感じて後ろを振り返ると,一瞬,明智先生と目があったような気がした。そんなわけないか……。と考え直して前を向くと,なんと目の前に赤尾先生がいた。
「おわっ!」
「どうかしましたか」
「い,いえ!なんでもないです!」
ぶんぶんと首を横に振って,足早に先頭の厳島先生を目指して歩き始めた。
「ま,まだ歩くの……」
あれからずいぶん歩いたというのに,太陽荘はまだ見えてこない。事前に高遠さんに見せてもらった地図でかなり歩かなければならないことはわかっていたが,まさかこんなにもだとは思わなかった。
「あと少しだと思いますよ」
「本当?」
と言いながら声が聞こえてきた隣を向くと,濱さんが汗を浮かべながらも笑っていた。
「濱さんの笑顔って,すごく癒される〜」
「そ,そうかな……?」
「うん!お陰で元気出てきた!濱さんと一緒ならあと五時間は歩けちゃうかも」
「あはは,野々葉さんって面白いね」
「有り難きお言葉っす!……あ,ついたみたい!」
ようやく見えてきた建物は殺風景で,中屋敷君が言ったようにまさに四角いコンクリートの箱。
「太陽荘,ね……」
私は真っ赤な看板を見てひとり呟いた。
左目