高遠 | ナノ


 土色のジャージに名札を貼り終えて顔を上げると,ちょうど正面で金田一君と霧沢君が話をしていたので私も混ざろうと一歩踏み出す。だが,お仕置き部屋について金田一君が尋ねた為か,霧沢君はかなり吃りながら気にしない方がいいよ,と言い逃げてしまう。

「な……なんか,モーレツに気になるんですけど……」

どよ〜んと落ち込む金田一君にそっと近づき,
「私,知ってるよ……」
と,怪談話でもするようなトーンで話し掛ける。

「な,なんだよ?」

「そこに入れられるとね,独房みたいな場所で二十四時間ずーっと一人っきりで勉強させられるんだって……。食事は一日一回,食パンの耳だけ。睡眠時間はたったの三時間なのに,寝ようとするとどこからか,助けてくれーって声が聞こえるんだって。そして……万が一逃げ出そうとしたら……!」

カッと目を見開く私に,金田一君が真剣な顔で
「に,逃げ出そうとしたら……?」
と続きを促す。だが,そこでちょうど氏家先生の声が掛かってしまった。

「さて……それでは塾生のみなさん,静粛に!」

「残念,時間切れ〜」

「お,おい!野々葉!」

私は,前に向き直る私に尚も話を聞こうとする金田一の肩をぽん,と叩いて笑った。

「安心してよ,いまの全部嘘だから!」

「はあ!?からかいやがったな!」

「ほらほら静かに!怒られちゃうよ」

悔しそうな顔をする金田一君には気づかないふりをして,氏家先生と厳島先生の自己紹介を聞く。

「私,氏家貴之と申しまして当極問塾の主任講師をしております。今回は,私は理系のみなさんと御一緒に月光荘の方を担当しまして,物理,生物,化学の授業とみなさんの寮生活係をさせていただきます」

「同じく当塾の副主任講師で国語,古文,漢文を担当する厳島蘭子です。私から今回の合宿に同行いたします講師を御紹介いたします」

そう言って,厳島先生は続いてふたりの講師を紹介した。

「赤尾です……」

前に出てきた赤尾先生こと高遠さんには聞こえないよう
「私あの先生苦手……」
と小さな声で呟いて,私はそっと美雪ちゃんの後ろに隠れた。高遠さんはそんな私をちらりと見たあと,金田一君を見てフッと笑った。その様子を見て私も笑うが,もちろんそんなことには気づかない厳島先生は講師の紹介を続ける。
次に出てきたのは,なかなかお目目のきらきらきらーとした人だった。

「どうも,明智健吾です」

そう言う明智先生は,お目目だけではなく背景まできらきらきらーとしているように見える。眩しい!それになんだかイヤミっぽい!
というか,高遠さんはこの人のことを警察の人間だって言っていたけど,塾の講師なんてしていいのだろうか?
潜入ってことでセーフなのかな。と私は頭を傾げた。

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