高遠 | ナノ
「あの。あ,赤尾先生?」
高遠さんの背中に恐る恐る話し掛ける。出来れば振り返らないでほしいな〜,という願いも虚しく,高遠さんはくるりと振り返ってしまった。怖い。
「はい,なんですか?野々葉さん」
「さっきは,ごめんなさい」
なるべく顔は見ないようにネクタイを見ながら言う。と,不意に高遠さんに肩を捕まれ,私の口から声にならない悲鳴が漏れた。
「いえ,こちらこそ驚かせてしまいすみません」
「おおおお,怒ってます!?本当にごめんなさい!」
わざわざ顔を近付けてくる高遠さんに,私は泣きそうになった。必死に上体を反らして距離を取ろうとするが,それに比例するかのように真っ白い顔が近付いてくる。
もうこれ以上反れない!万事休すか,と思われた,その時。建物内に非常用のベルが鳴り響いた。
「な,なに!?」
突然の出来事に慌てる私と正反対に,高遠さんはにやりと笑う。
「ショーの始まりですよ,藍子。行きましょう」
「! はい!」
私は泣きそうになっていたのもすっかり忘れて,わくわくと高遠さんの後に続いた。
左目