高遠 | ナノ


 獄門塾,なんて言われてるだけあって,建物からすでに嫌〜な雰囲気。昔は病院だったとも聞くし……,オバケが出たらどうしよう。
私は極問塾を見上げながら深いため息をついた。行きたくない。が,行くしかない。鉛のように重い足をなんとか動かし,私は塾の中へ歩を進めた。


「藍子ちゃん!?」

「美雪ちゃん!」

 入ってすぐに声をかけられたと思ったら,生徒会の関係で知り合った友人がいた。その隣には同い年くらいの男の子。ということは……

「その人が美雪ちゃんの言ってた,はじめちゃん?」

「あ,ううん!この人はクラスメイトの草太君。はじめちゃんも来る予定だったんだけど,待ち合わせ場所に来なくて……」

「そうなんだ?でもわかるかも,その気持ち……」

アハハ,と乾いた声で笑い,草太君とやらに向き直る。

「えっと,野々葉藍子です!よろしくね」

「村上草太です。見ない顔だけど,野々葉さんも見学に?」

「ううん。一応ここの塾生。最近入塾したの。って言っても,急な引っ越しでちょっと忙しかったから,授業は出たことないんだけどね。美雪ちゃんは?見学?」

「うん。本当ははじめちゃんを……」

と,そこまで言って,美雪ちゃんは突然ハッとした顔で私の後ろを見た。それに気づいた村上くんと私が振り返って叫び声を上げるのは,ほぼ同時だった。

「え?わっ!?」

「ぎゃあああーっ!出たー!」

咄嗟に美雪ちゃんの後ろに隠れて,肩越しにそっとオバケを見た。白いゴムマスクに見開かれたお目目。お目目……,目……?

「あっ……赤尾先生……!」

「入塾希望の方かね?村上君」

村上君と赤尾先生と呼ばれた男のやりとりを聞きながら,しまった……かも?と思った。
あの目は間違いなく高遠さんの目だ。先にいますのでと言っていたからいることは知っていた。けどまさかあんな変装をしているなんて……。

「あ〜っ,びっくりした!藍子ちゃん大丈夫?」

「う,うん。ごめんね」

美雪ちゃんの背中から出て去っていく高遠さんの背中を見つめる。追いかけた方がいいのかな。今日は高遠さんの指示で来たわけだし,……それに謝っておきたい,念のため。

「最近入った人で優秀なんだけど」

「私……謝ってくる!」

「えっ,藍子ちゃん!?」

「またね!」
と二人に言って,私は高遠さんを追いかけるべく駆け出した。


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