高遠 | ナノ
高遠さんは,私の家で今日は人気アイドル速水玲香が誘拐された事件について話してくれた。
「へえ……。芸術犯罪ってすごいんですね!」
今回はだめだったけど,と心の中で付け足しながら
「間近で見てみたいかも」
と野イチゴの葉で淹れた紅茶に砂糖を入れながら呟いた。すると高遠さんはにやりと笑った。
「次は来ますか?」
「いいんですか?」
「ええ。実を言うと次の目星はもうついているんですよ」
そう言って,高遠さんはテーブルの上に紙を置いた。
「もう手続きは済ませてありますから」
「え?……げ!」
紙に書かれていたのは,悪い噂しか聞かない極問塾への入塾の旨だった。サイン欄には,私の字で,私の名前が書かれている。もちろん書いた覚えはない。
「藍子が自分から行くと言ってくれてよかったですよ。無理矢理連れていくのは少々骨が折れるので」
ソファで長い足を組んで満足そうに悪い笑みを浮かべる高遠さんに,この人には勝てそうにないなとため息をついた。
「でも,こんなこと出来るなら,悪いこといっぱいできちゃいますね」
「例えば?」
「……結婚届け勝手に出しちゃうとか?」
「フフ,出してきましょうか」
「保険金殺人……」
左目