高遠 | ナノ
学校からの帰り道,ポツリと雨が降ってきた。そういえば夕方から雨って天気予報でやってたな。と思いながら折り畳み傘を出そうと鞄を漁る。
「…………あれ,ない」
そうこうしているうちに本降りになってきて,私は急いで店の軒下に入った。そういえばこの前使ったまま玄関に置きっぱなしにしてるんだった。
仕方ない,しばらくここで雨宿りさせてもらおう。ふうとため息をつき,軒下から外を眺める。と,道行く人々の中に見知った顔を見つけた。
「おーい,高遠さーん!」
ぶんぶんと手を振り叫ぶと,高遠さんはこちらにやって来た。だが,その高遠さんには少し違和感があった。
「眼鏡……,それにネクタイしてる」
「仕事中ですからね。それより藍子,傘はどうしたんですか」
「家に忘れちゃって」
高遠さん働いてたんですか!?と言いたいのをぐっと我慢していると高遠さんがちらりと腕時計を確認した。おお,社会人っぽい。
「家まで送りますよ」
「えっ,仕事は」
「心配要りません」
「……じゃあ,お言葉に甘えて」
高遠さんの傘に入れてもらうと微かに薔薇の香りがした。もしかすると高遠さんって,お花屋さん?でもお花屋さんがスーツなんか着ないよね。
「高遠さんってなんの仕事してるんですか?」
歩きながら隣に聞いてみると,高遠さんがフフ,と笑った。
「ただのマネージャーですよ,それも,しがない魔術団のね」
「へえ〜。なんだか意外です」
高遠さんがマネージャーねえ。本当にただのマネージャーなのか勘繰ってしまいそうだ。魔術とか誰よりも得意そうなのに,と華やかな舞台に立つ彼を想像していると,
「それはこちらの台詞です」
と高遠さんが言った。
「え?」
「それ,秀央高校の制服でしょう」
「…………!それどういう意味ですかっ」
にやりと笑う高遠さんにどんっ,と肩でアタックした。
左目