高遠 | ナノ
少し休憩して帰ろうということになり,私たちは館内にあるカフェに入った。私はオレンジジュースとアップルパイを,高遠さんは紅茶を頼んだ。
「そういえば,高遠さんはどうして私を助けてくれたんですか?」
雑談の後,ふと気になって聞いてみた。
「眼球愛好者であるあなたに,興味があったからですよ」
「へえ,私に……。どうでした?今日一日,眼球愛好者と一緒に過ごして。なにかわかりましたか?」
「いえ,なにも。ですが,楽しかったですよ,藍子」
「じゃあ,また遊んでくれますか?」
「いいですよ」
私は笑って,アップルパイの最後の一口を食べた。と,そのとき,テーブルの端に置かれた小さなメニュー表の隅に,あの羊を見つけた。隣に,売店にてぬいぐるみ好評発売中と書いてある。
「あの,高遠さん」
買いに行ってもいいかと聞こうとパッと前を向くと,先程までは無かったテーブルの上のモコモコが目に飛び込んだ。
「あ!羊!」
それは紛れもなく,美しき眼を持ったあの絵のぬいぐるみだった。見るからにふわふわとしていて愛らしい。でもどうして,いつの間に?
「チケットのお礼です」
「え!でも……」
私は高遠さんの顔と羊を交互に見た。高遠さんは私が受け取るのを笑って待っていて,羊は目を閉じたまま黙っている。ほしい。けど,本当にいいのだろうか?
「………………ありがとうございます」
私は迷いに迷って,結局もらうことにした。私がぬいぐるみを手に取ると,高遠さんは目を細めて笑った。
「すっごく嬉しいです。絶対,大切にします!」
「フフフ,そうしてください」
左目