高遠 | ナノ


 私は男の手を両手で握って,もっと近くで見るためにずいっと顔を近づけた。

「あなたの目,すっごく綺麗!まるでお月様みたい!」

こんなに綺麗なお目目は見たことがない!ネックレスにしてずっと持ち歩いてたい!ずっと眺めてたい!きらきらきらーなんて言葉では言い表せないわ!

なんて姦しく語っていると,彼はふっと笑った。

「やはりあなたでしたか。近頃巷を騒がせている,目を盗む殺人鬼は」

「私,盗んでません!あとでちゃんと返してます。あ!でもあなたの目は返せないかも……。だって綺麗すぎるんですもの!お願いです,ください!」

そう言って手に力を込めると,彼はさらに目を近づけて,薄く笑った。

「どうぞ?」

「わあ,本当?嬉しい!」

こんなに綺麗なお目目が私のものになるなんて,夢みたい!喜びの舞いを踊りたいのをぐっと我慢して早速手を離し,ナイフを取り出そうとする。が,腕に提げた袋が目に映り,私はハッした。

「だめだわ……。だって,あなたは私を助けてくれた。その上目をもらうなんて,いくら私でも心苦しいです!」

とは言えこの目を諦めることは到底できない。私はうーんうーんと必死に考えた。そして,ぽん、と手を叩いた。

「そうだ!私あなたに恩返しします。それからもらいます。いいですか?」

そう言って首を傾げると,彼は苦笑した。

「ええ、いいですよ」

「ありがとうございます!じゃあ,今日はこれで失礼します。ご機嫌よう!」

私は彼にぶんぶんと手を振って家路についた。

左目
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