高遠 | ナノ
私はきらきらきらーと光るお目目が子供の頃から大好きだった。きらきらきらーとは何か,具体的に説明しろと言われると困る。きらきらきらーとは,きらきらきらーなのである。
とある朔日の夜,きらきらきらーと光るお目目を見つけた私は,しばらくの間そのお目目を拝借することにした。
まずは動くうるさい体を完全に停止させる。そしてお目目を綺麗に取り出す。(最初の頃はうまく取り出せなくて潰してしまったり傷つけてしまっていたが,近頃はだいぶこなれてきた。)次に警察に通報して(借りる側としての最低限のマナーである),警察が到着する前に逃げる。最後に十分鑑賞したお目目を持ち主(の遺族)に返せば完璧だ。
だが,その日,近くにいたのか警察が思っていたよりも早く到着してしまった。大慌てで逃げ出すが,後ろから怒声と足音が聞こえてくる。私は入り組んだ路地を利用して曲がり角を何度も曲がった。かなり引き離したところで念のためもう一度角を曲がる。と,何かにぶつかって,盛大に尻餅をついてしまった。
「あいてっ!」
その拍子に袋に入れていたお目目入りのケースにごちんと頭をぶつけた私の目の前にきらきらきらーとお星さまが散った。わー綺麗。
「いたぞ!」
しかし,背後から聞こえたその声にハッと現実に戻された。慌てて立ち上がり,振り返るが,もう逃げられる距離ではない。私は覚悟を決めて,しらばっくれることにした。
「な,なんですか?」
「お前,あそこで何をしていた!?」
「知りません! だって,だって私……」
強く打ったせいかうまく頭が回らない。口をもごもごと動かす私に,警察官の眼光が鋭くなる。
「署まで同行願おうか」
警察官が私の腕を掴もうと手を伸ばした。だが,その手は宙を切る。後ろから伸びてきた手が私を引っ張ったのである。
「その必要はありません」
警察官から庇うように,男が私をその背に隠した。慌てすぎて失念していたが,私はこの男にぶつかったんだった。私はハラハラと男の背と警察官とを見ながら,男の言葉を待った。
「私は彼女とずっと一緒にいましたから。それよりも,ずいぶん慌てた様子の女が彼女を押し退けてあちらへ逃げていきましたよ」
「なんだと……?」
警察官は男をじっとねめつけた。だが,しばらくすると舌打ちして,私たちに背を向けて無線でどこかへ連絡し始めた。
「行きますよ」
その間に男は私に小さくそう耳打ちしてきたので,私は足音をたてないよう細心の注意を払いながら彼と共にその場を後にした。
かなり歩いたところで,私は男の背に話しかけた。
「あの,ぶつかっちゃってごめんなさい。それと,本当にありがとうございました」
すると男は足を止め,私を振り返った。
私はそのとき初めて男の顔を見たのだが,その目の美しさに,私は呼吸の仕方を一瞬忘れてしまった。それらとの出会いは,雷で脳天を貫かれるよりも,重たい花瓶で頭を殴られるよりもずっとずっと衝撃的だった。
左目