蛇ノ首谷を出ると、そこは知らない場所だった。商店街とバス停。そして徘徊する化け物。私は唾を飲み込んだ。ここは、……異界、なんだ。そう理解すると、一瞬、目の前が真っ白になった。宮田さん、そう言おうと彼の方を向いた瞬間、女の叫び声が聞こえた。
「助けて!」
「な!?」
宮田さんにすがりつく女、――恩田美奈。
「っ! いた、い……。なに、これ」
突然の頭痛に頭を抱え目を閉じると、頭の中に映像が流れた。
深く掘られた穴が見える。近くには、血痕。
『これ……』
穴を覗き込むその声の主は、紛れもなく、私だった。映像の中の私は気配を感じて振り返る。瞬間、頭を殴られ、意識を失った。
「なまえ!」
名前を呼ばれハッとして顔をあげると、私は宮田さんに肩を掴まれていた。どこか心配そうな顔をする彼に、私は
「すみません」
と、小さな声で言った。
「いや、いい。屍人の視界が見えたんだろう?」
「え……」
屍人とは、化け物のことだろうか。いま私が見た光景は、きっと私が見たものだ。だから、違う。しかし、どう言えばいいかわからず、私は宮田さんから視線を反らした。その先には、心配そうな顔をした恩田美奈がいた。
「ぶ、無事だったんですね、美奈さん」
無理矢理話題を反らすと、彼は私の肩から手を離しながら説明してくれた。
「彼女は美奈さんの妹だ」
「いも、うと?」
「恩田理沙です。宮田先生、お姉ちゃんは無事なんですか? お姉ちゃんどこですか?」
再度宮田さんに詰め寄る恩田、理沙。私は無意識の内に自らの手を握りしめていた。
「私も美奈さんを探していたんです。ひとまず病院へ」
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