もう少し歩くと、宮田さんがこちらに向かって歩いてきていた。きっとこの廊下の向こうに行くのだろう。今度こそ、と生唾を飲み込む。そして私は口を開き、生ぬるい空気を吸った。
「こっ、んにちは……!」
やや上擦った声が出てしまい、顔に熱が集まった。宮田さんはそこで初めて私に気がついたかのようにちらりと視線だけをこちらに向けた。
「どうも」
それだけ言って、彼は去ってしまった。けれど、私にはそれで充分だった。跳ね回る心臓と緩む口元をおさえ、彼の背中を見つめる。
「ごめんなさいね。宮田先生、不器用で」
そこへ現れたのは、看護師の美奈さんだった。にこにこと人の良い笑顔を浮かべている。
「いえ……そんな……」
思わず反らしてしまった視線があてもなくさ迷う。と、少し遠くで宮田さんが彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。「またね」と嬉しそうに言って彼の方へ小走りで向かった彼女の背中を睨む。
どうしてあなたが謝るの。
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