長編 | ナノ


 微かに香る薬品の臭いで目を覚ました。上体を起こし辺りを見回すと、そこはいかにも清潔そうな白亜の病室だった。腕には点滴の針が刺されていて、私は支給されたパジャマを着ていた。

「また夢……」

取り付けられたはめ殺しの窓には所々が錆び付いた格子が付けられている。その反対側には、こちらからは決して開くことのできない扉がある。過去に何度も試したがどうしても開かなかった。が、きっと今ならば開くだろう。そう判断して、腕からテープを剥がし針を引き抜いた。


 扉は簡単に開いた。開くとは思っていたが、なんだか拍子抜けだ。壁に手をついて歩いていると、突き当たりの廊下に宮田さんがいた。どきりと心臓が跳ねる。近寄って挨拶しよう。そう思うのに、足が動かない上、声も出ない。ただただ心臓がうるさかった。そんな情けない私には気づかず、宮田さんは行ってしまった。

いつの間にか膨らんでいた気持ちが急速に萎んでいくのを感じた。



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