追いかけたは良いものの、完全に見失ってしまった。まだそう遠くには行ってないはずだが……。私は仕方無しに、勘を頼りに再び歩き出した。
さきほどの「理沙さんを頼む」という宮田さんの言葉。あれは暗に、ついてくるなという意味だろう。普段の私ならおとなしく従った。しかし、今は非常事態だ。彼を渡すわけにはいかない。
そう考えながら歩いていると、突如空気が痛いほどに張り詰めた。心臓がどくりどくりと跳ね、足がすくむ。
「この部屋からだ……」
黒々とした雰囲気を醸し出す部屋の前で、私は立ち止まった。気持ちが高揚し、心臓がさらに速く跳ねる。脳みそも心臓になってしまったんじゃないかと思うくらいにドクドクと動いていた。焦りにも似た興奮。荒くなる呼吸を抑えるためごくりと唾を飲み込み、勢いよく扉を――開けた。
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