小説 | ナノ

 プルタブを外すと炭酸が弾けてシュワシュワと心地良い音をたてた。それを先程からチャットに夢中になっている臨也の頭にぶっかける。あらやだ、炭酸も滴る良い男。なんちゃって。

「私、付き合うならさ」

 やっとこちらを向いた臨也が形の良い口を開くよりも早く、私は言葉を続けた。

「黒髪で眉目秀麗で優しくてお金持ってて情報屋やってて黒い服が似合う、お、から始まって、や、で終わる折原臨也以外の人がいいな」

口早に言い切ると、臨也は眉をひくつかせ「あのねえ」、といつもより低い声を出した。どうやら怒ってるみたい。怒ってるのはこっちなのに。

「そんな人はまずいないし、いたとしても君みたいに突然炭酸をかけてくるような人とは付き合いたくないと思うけど」

臨也も口早にそう言った。いないのか、残念。じゃあ元カラーギャングのリーダーで明るい茶髪で寒いギャグを言うイケメンのところに行こうかな。うんそうしよう。

「私、正臣に会いに行ってくるね」

「でもさ」

 踵を返した瞬間腕を捕まれた。ああやだ臨也菌が移る。

「君みたいな子に付き合いきれるのって、俺だけだと思うんだよね」

キュン、……なんてするはずもなく。私は左手に持っていた残りの炭酸水を臨也の顔面にぶっかけた。

「意味不明」

 私がそう言うと臨也はまた眉をひくつかせた。
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