庭を散歩していると主の部屋から長谷部が出てきた。
おーい、長谷部
と呼んでみるが返事がない。長谷部、長谷部ー、へっしー、と何度呼ぼうが無視しているらしく振り向こうとすらしない。腹に据えかねた私は足元にあった石を手に取り遠ざかる背中に投げつけた。
おい、長谷部
ぴたり、長谷部がようやく足を止めた。そしてようやく振り返ったと思ったら、私が投げた石を拾って神妙な顔でそれを見つめた。
「今のは全力か」
全力投球かってこと? うん、まあそうだけど。……し、仕方ないでしょ。私は刀剣のみんなと違って……
「そうか」
ぶん、と風が頬の横を通り抜けた。
え、なんか今、……え!
数秒遅れで石を投げられたと気づいた私は体の芯から震え上がった。
こ、こわ!絶対いま寿命縮んだ!
「やられたからやり返したまでだ」
長谷部は涼しい顔でそう言って、多量の冷や汗をかく私に近づいてきた。
ご、ごめんなさい!命だけはどうか!
「……少しやりすぎたか」
ばつの悪そうな顔をした長谷部が、手袋を取った手で身構える私の頬を撫でた。ちり、と痛み感じて初めて私は頬が切れていることに気がついた。
いて
「これで我慢しろ」
どこからか出した絆創膏をぺたりと私の頬に張り付けた長谷部に思わずあ、と声が漏れた。長谷部が主からもらって大切にしてたやつなのに。私なんかに使っていいのだろうか。それを聞こうとして口を開き、思い直して閉じた。そんなことを忘れるほど呆けてはいないはずだ。
「なんだ」
べつに?……うふふ、べつに!
「気持ちの悪いやつだ」
そう言って長谷部はとっとと仕事に戻ってしまった。私はその後しばらく頬の絆創膏を撫でてはにやにやと笑った。
20150329
20151123