足立くんがどうしてあの女と付き合っているのか疑問だった。あいつ、本当はすごく性格悪いのに。足立くんはきっと騙されてるんだ。
「早く別れないかなあ」
早く別れて、私と付き合えばいいのに。私のほうが足立くんのことが好きで、私のほうが足立くんのことを幸せにしてあげられるのに。
そう考えていたある日、私は自販機の横にあるベンチの陰で項垂れる足立くんを見つけて、彼がいつも飲んでいるブラックのコーヒーを買って差し出した。
「どうしたの、足立くん」
「田舎に飛ばされることになっちゃってさ。それを言ったら彼女にはふられるし、最悪……」
それぎり足立くんは何も言わなかった。ほら、あの女、性格悪いでしょ。しょうがないから、私がついていってあげる。
こうして私の田舎での生活が始まった。そこはいままで住んでいたところに比べると本当になにもなくて、足立くんはつまらなそうにしていた。そんなある日、足立くんがある女が映るテレビを、いつかのあいつを見る目で眺めていることに気がついた。その女は山野という女子アナだった。あんな女、足立くんに釣り合わない。足立くんにふさわしいのは私だけだ。
「死んじゃえばいいのに」
しばらくして山野の不倫が発覚し、その後変死体として発見された。ほら、釣り合わないでしょ。でも大丈夫。足立くんには私がいるから。私はこの頃から足立くんとよく話すようになった。
「足立くん、今日はうち来る?」
「ごーめん。いまから第一発見者の子の事情聴取でさ、帰り遅くなりそうなんだよね」
「そっか……、わかった」
足立くんの背中を見送って、帰ろうと踵を返すと、女の子にぶつかった。その子は小さな声で謝るとすぐにどこかへ行ってしまった。あの子、確か、足立さんが言っていた第一発見者だ。
「消えろよ、ばか」
何日かしたある日、今度はあの子が変死体として発見された。ほら、私の邪魔をするから。私は心の中で彼女をせせら笑った。
「あーあ、見ちゃった」
ある日、家に帰ると足立くんがクローゼットの前で佇んでいた。その中には私の足立くんへの思いが詰まっていた。これでわかったでしょ。私がどれだけ足立くんを好きか。私がどれだけ足立くんを見てきたか。
「×××」
それなのに、足立くんは私の耳元でひどい言葉を呟いて家を出ていってしまった。あんまりひどいもんだから、何言われたかは即座に忘れてしまった。けれど、恨みだけは残った。
「そんなこと言う足立くんなんて、いなくなっちゃえ」
翌日足立くんはいなくなった。涙はでなかったが、虚しくて仕方がなかった。それは幼い頃に大切なお人形を亡くしてしまったときの気持ちとよく似ていた。
「こんな世界、滅んじゃえばいいのに」
141201