目覚ましの音に叩き起こされて窓を開けると爽やかな朝だった。歯を磨き、顔を洗い、セーラー服を身に纏う。と、赤いスカーフが無くなっていることに気が付いた。溜め息を吐いて隣の部屋へ歩くと、今まさに首を吊ろうとしている彼がいた。
「太宰さん、私のスカーフ返してください」
「あれ、名前。思ったより早かったね」
彼はうふふと笑った。
「君がどうしても頸を絞めてくれないからね」
「当たり前でしょう」
「其れなら心中しよう」
名案だとばかりにぽんと手を叩いて、彼は私にベルトを渡してきた。
「厭ですよ」
「入水の方がいいかい」
「自殺の仕方が厭なんじゃなくてですね、えぇと」
「?」
彼は首を傾げた。彼に生きるという選択肢は無いのだろうか。ないのだろうな。
「そもそも、心中の相手が私なんかでいいんですか」
今ここで死ぬのは避けたかったので、なんとか説得してみようとそう云ってみた。どうせなら美人が良いに決まっている。私と心中なんてただの気の迷いだったと気付くだろう。
「確かに、君は取り立てて美人ではないし、気立てが良いわけでもない」
ぐさりと心に刺さった。事実だが、正面からこうして云われると矢張り傷つくものだ。私は心のどこかで期待でもしていたのだろうか。
「だが」
目線を下げて泣きそうな顔を見られないようにしていると、ぽん、と肩に手が置かれた。驚いて彼を見ると、彼の綺麗な顔が思っていたよりも近くにあって、肩が跳ねた。太宰さんの形いい唇が動く。
「それでも私は君がいい」
まるで告白のようだった。否、告白だったのかもしれない。私は太宰さんの首の後ろに手を回し、顔をぐっと近付けた。きっと私は莫迦である。
「私もどうせ死ぬなら太宰さんとがいい」
私はにこにこと嬉しそうな太宰さんの唇に自分の唇を押し付けた。
140601