※アウターサイエンス
辺りに銃声が響いた瞬間、肩に鋭い痛みが走った。衝撃で後ろに倒れそうになる私の胸ぐらをクロハは掴んだ。
「叫ばないのか」
「私は、絶対に叫ばない。いま叫んだら、マリーちゃんが戻ってきてしまう……、だから」
泣きながら逃げるマリーちゃんの後ろ姿を思い出し唇を噛み締める。すると彼は面白くなさそうに
「ふーん」
と言った。そしてしばらく考えるような素振りをした後、にやりと笑った。
「もし叫ばなかったら、あいつは見逃してやるよ」
「……約束、よ」
私はそう言って、口をきゅっと結んだ。本当は怖くて怖くて仕方がなかった。それでも彼女が助かるなら、私が誰かの役に立てるなら、それでよかった。彼は心底楽しそうに笑って、私の肩の傷をべろりと嘗めた。
「っい……」
予想外の痛みに思わず声がもれた。私は慌てて口を手でおさえる。彼はなおも傷を嘗め続けた。抉るような痛みにぼろぼろと涙がこぼれ落ちる。そのうち彼の舌は移動し、私の鎖骨にかぶりと噛みついた。
「んっ、ふ」
彼は私の服の中に手を入れ、腹を優しく撫でた。そしてかぶりと首筋に噛みつき、ようやく顔を離した、と思うと、腹に冷たいものがあたった。次の瞬間、再び銃声が鳴り響く。
「殺すのがもったいない」
今度こそ私は地面に強く頭を打った。彼は口の端についた血をべろりと嘗めそう言った。私は下腹部から血を流しながら、じゃあ殺さないでよ、なんて遠退く意識の中のんきに考えていた。
「残念だ」
まんべんの笑みで私を見下ろす彼は、私の下腹部を強く踏みつけた。痛みを認識するより早く、私は、叫んでいた。
「あーあ、叫んじゃった」
「だめ、待って。お願い、やめて!」
私はげほげほと吐血しながら、先に進もうとする彼に向かって懇願した。しかし彼はひらひらと手を振って闇に溶けていった。
辺りには慟哭する声が響いた。
140218