小説 | ナノ

 数学の授業をエスケープして屋上で不貞寝していると、名前を呼ばれた。目を開くと、私の顔を覗き込む閻魔と雲一つない真っ青な空が視界にうつった。

「どうしたの。仕事は」

「今日はお休み」

「ふーん」

「ふーんって……」

苦笑する閻魔を見据え、私は
「私のこと迎えに来たんでしょ」と聞いた。閻魔は苦しそうに顔を歪めた。

「……うん」

「ふーん」

「ふーんって……」

閻魔はまた苦笑いした。
 私は閻魔を初めて見たとき、近いうちに死ぬのだと直感で思った。遅かれ早かれ人は死ぬ。私は特になにをするでもなく、ただただ今日を待った。死にたいといえば嘘になる。むしろ、死にたくない。だがこれは抗いようのない運命なのだ。

「いこっか」

 閻魔はそういって落下防止の低いフェンスを乗り越えた。くるりとこちらを向き、私に手を伸ばす。その足元に地面はない。

「うん」

私は笑うと、立ち上がり、同じようにフェンスを越えた。そして閻魔の手をとる。閻魔はその手を引っ張って私を抱きしめた。

 重い体は地面に落ちていった。


130129 16日にあげたかったやつ
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