※儀式が成功したけど頭がおかしくなっちゃった牧野ん
よく晴れた休日の午後。私は病院の近くで、会ってはいけない人にあってしまった。
「牧野、さん」
そっと声をかけると、彼は
「こんにちは」
と愛想の良い笑みを浮かべた。
「いい天気ですね。お散歩ですか、名前さん」
「まあ、そんなとこです。……あの、牧野さんは何を?」
恐る恐る問うと、牧野さんは笑顔を崩さぬまま
「教会に戻るんです」
と言った。
牧野さんは8月のいつ頃かから宮田医院に入院していたはずだ。理由は詳しくは知らないが、頭が少しおかしくなってしまったらしい。そんな彼が、どうしてここにいるのだろう。退院? ――まさか、抜け出したのだろうか。……一応、病院に連れていこう。
そう思い、恐る恐る私は牧野さんに言った。
「牧野さん、病院に帰りましょう?」
「病院?」
そう呟いた牧野さんの顔がみるみるうちに険しくなった。そしてわなわなと震えだし、私をぎろりと睨んだ。
「あなたも……。あなたも私をおかしいと言うんですか。私はおかしくない! おかしくないおかしくないおかしくないおかしくないおかしくない」
「ま、牧野さん!」
まるで自分に言い聞かせるように何度も繰り返す彼をなだめようとした、その瞬間。
「あ、え?」
全身から力が抜けて、私はその場に崩れ落ちた。すぐには牧野さんに腹を刺されたのだと気づけなかった。彼は目に涙を溜めてその場に佇んでいた。
「ま、き、さ……」
声が掠れてうまく言えない。牧野さん、――
そこで私の意識は途切れた。
130116