真夜中、私は誰かに肩を揺さぶられた。そっと目を開けると、そこには誰もいなかった。上体を起こし辺りを見渡すと、懐かしい背中が廊下の角を曲がるのが見えた。
「丁……?」
私は急いで立ち上がり、私よりもずっと低くなってしまったその背中を追いかけた。それは家を出て、村外れの方へ歩いていく。そして、森の近くで暗闇に消えた。
「ここは、たしか……」
そこは丁が生贄に捧げられたと聞いた場所だった。もしかして、丁は私を怨んでいて、それで……。その先を考えるよりも早く、私は駆け出した。一秒でも長くその場にいたくなかった。だのに、私の腕は誰かに捕まれて。私は声にならない悲鳴を上げた。私の腕を掴んだその人は、もう一方の手を私の腹に回し、私を引き寄せた。
「名前」
耳元で囁かれ、背中がぞくりとした。私は強制的に後ろを向かされ、その人と顔を合わせる形となった。
「あ、ぁ……」
そこにいたのは、私よりもずっと背の高い丁だった。丁の額には角がはえていて。この村を恨み、鬼になったのだろうか。
「迎えに来ました」
間に合って良かった。そう呟く彼の瞳は優しくて。私は何度も頷いた。
「ごめん、ごめんね。助けてあげられなくて。私……」
と、そこで突然丁の瞳が凍てつくすような冷たさを持った。
「え……?」
という間の抜けた声が口からもれる。
「嘘つきは、どうなるか知っていますか。……――舌を抜かれるんですよ」
次の瞬間、丁に口づけされた。と思ったら、無理矢理舌を捩込まれて。逃げようにも頭と腰に手を回されていて出来ない。
「んっ……ぁ、や……」
頭がぼーっとして、何も考えられなくなる。厭らしい音と、私の鼻にかかったような声だけがあたりに響いた。
「……っは、ちが、の」
ようやく解放され、私は肩で息をしながら誤解を解こうとした。丁は息も乱れておらず、平然とした様子で小首を傾げた。そして私が声を発するよりも早く、私の右の手首を掴み、ぐしゃっと握り潰した。一瞬の後、想像を絶する痛みが私を襲った。丁は、あまりの痛みに叫ぶことすらできない私を抱きしめた。
「待っていたんですよ」
丁はそういって腕の力を強めた。ぶすりと、丁の指が私の背中に刺さる。ごめんなさい、そう言いたいのに呼吸さえできなくて。涙で目の前が霞んだ。全身の骨がみしみしと悲鳴をあげ、そしてついに、ぼきり、と折れてしまった。
「それなのに、まだ好きだなんて」
121229 好きな子ほど虐めたくなる
口調あってる?