小説 | ナノ

※捏造

 教会の長椅子の隅っこに座っていたら、名前さんがごろんと同じ長椅子に寝転がって、私の膝に頭をのせてきた。ぶわっと鳥肌がたつ。私はすぐにでも立ち上がりたいのを我慢して彼女を見た。

「牧野さーん」

 彼女は気持ちの悪い笑みを浮かべて私を呼んだ。

「なんですか」

出来るだけ優しい声を出そうと努めたのだが、少しだけ冷たい声になってしまった。

「牧野さんって、優しいんですね」

「そうですか?」

「はい。だってこの前――」

また始まった。彼女のこういうところが嫌いだ。長々と私の嫌いな話をする。早く帰ってくれ、と悪態をつきながらも仕方なく相づちを打つ。八尾さんが見たら、怒るだろうか? そういえば、八尾さんどこに行ったんだろう。少し出掛けると朝方出ていったきりだ。早く帰ってこないだろうか。

「牧野さんって、嫌いな人いるんですか?」

「……いません、よ」

突然の質問に、驚いて声が震えてしまった。しかし彼女は気づいていないのか、
「やっぱり!」
と嬉しそうに笑った。私は
「はは……」
と苦笑いした。あなたが嫌いです、そう言えたらどんなに楽だろう。

「私、そんな牧野さんが好きです」

名前さんは愛らしく微笑んだ。ぽつぽつとまた鳥肌がたつ。

「きら、い……です」

私は目を瞑りそう言った。彼女の困惑した顔が瞼に浮かぶ。

「あなたのことも、わ、私の、ことも……。こんな私が好きだなんて、頭、おかしい、です、よ……。こんな、全然、だめな私を、褒めるあなたが、……嫌いです。あなたを嫌う私も、嫌いです」

「牧野さん」

 膝から重みがなくなったと思ったら、何かに体を包まれた。そっと目を開けると、名前さんに抱き締められていた。ぽんぽん、と優しく背中を叩かれる。恐る恐る背中に手を回し抱き締め返した。彼女と逃げたい、なんて、一瞬思ってしまった自分が嫌いだ。


120817
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