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※気色悪い

 広間の大時計が午前零時を告げる。私は隔離病棟を抜け出して院長室に向かった。

「こんばんは」

歯が半分剥き出しになった口でそう言うと、ふかふかのチェアで仕事をしていた宮田さんは持っていたペンを置いて腕を広げた。来いの合図だ。私は照れ隠しに笑いながら彼に近付く。するとひしゃげて無い方の腕を引っ張られ、ぎゅうと抱き締められた。あったかい。

「みやたせんせい」

甘えるようにそう呼ぶと、背骨がばきばきと音を立てて壊れるほど背中に回した腕に力を込められた。彼なりの愛情表現。私の白と緑が混じった頬が赤く染まるのが自分でもわかった。恥ずかしくて恥ずかしくて、私は身を捩った。すると、片足が付け根からぼとりと落ちた。続けてもう片方の足の太ももあたりの血管がぶちぶちと切れていく。最後にすとんと足が落ちた。

「あ……」

そして宮田さんに手を離されて支えを失った私は、ごろんと床に倒れ込んだ。優しく微笑む宮田さんが信じられなくて瞬きをする。
 するとあたりは真っ暗になって、私は隔離病棟の自室にいた。隣室から聞こえてくる悲鳴や絶叫にただただ怯えながら、私は静かにベッドの下で腐っていくのだった。

120410
TITLE:僕は狂気の模造品
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