腐っても化け猫。いまは人の形をしているが、私だって猫なのだ。猫。つまり君達が悪いんだ。美味しそうに咲く君達が。
自分の中の天使をそう説得し、私は忍び足で庭の金魚草に近付いた。
「食べていい?」
鋭い爪先でつつきながら小声で聞くと、彼らは突然おぎゃあおぎゃあと騒ぎ出した。これには私もびっくりして咄嗟に威嚇してしまった。しかしすぐに正気に戻り、彼らをいそいで黙らせようとした。
「や、やめて! 鳴かないで! いまは食べないから!」
彼らは聞いているのかいないのか、鳴き止まない。このままじゃ彼が来てしまう! それだけは避けなければ。
「なにをなさっているんですか」
「ぎゃあ!」
今度は私が悲鳴をあげた。この声は……。首だけをそっと後ろへ向けると、般若のような顔をした鬼灯様がいた。私はあわてて立ち上がり、手をぶんぶんと振った。
「ち、違うんです! 誤解です!」
「何が違うんですか」
このままじゃ鍋の具にされる! 命の危機を感じ逃げ出そうと思った瞬間。グイと首根っこを捕まれ足が浮いた。
「そうそう。たった今鍋が出来たんです。どうです、良ければ食べていかれませんか」
「えっと、えーと……」
「そうですか、食べていかれますか」
どう断ろうか迷っていると、何が聞こえたのかそう言って私を引き摺りどこかへ向かい始めた鬼灯様。
「ごめんなさい待ってくださいすみませんでした」
苦し紛れに謝罪すると、彼は足を止めた。よかった、通じたとホッとして彼を振り返る。
「別にいいですよ。気にしてませんから」
すると彼は、まさに人食い鬼の顔をしていた。
「おおお鬼!」
「鬼です」
120322