銀時の家へ行くと、彼はソファーで寝ていた。しょうがないわね、と押し入れから布団を取りだし彼に掛ける。すると見計らったように彼が目を開けた。
「あ、あぁ……?」
突然の来訪者に驚いているようだ。目を擦りながら上体を起こす銀時に、私は微笑んで「久しぶりね」と言った。
「お前……」
「今日ちょうど地球の真上に来たから、寄ったの」
銀時の向かいに座りながらそう言うと、彼はなぜか「あぁ、夢か」と言い出した。失礼な人ね。現実よ。
「……ところで、新しい人が出来たみたいね」
「は、はあ!?」
知られたくなかったのか、彼はずいぶん狼狽えた。私はくすくす笑いながら、布団を指差した。
「女の匂いがするわよ」
「いま子ども預かってんだよ」
今度は私が驚いた。
「嫌だ、ロリコンになったの?」
「ちげーよ! 預かってるっつったろ」
必死な剣幕で言う銀時に、家族のようなものなのかしら、と申し訳なくなった。
「そう……。あ、それと。千日紅送るの、止めてくれる?」
銀時がムッとしたのがわかったが、私は続けた。だって部屋にかなりたまってるもの。置く場所がないわ。
「長持ち過ぎるわ。送るなら、そうね……、ボリジにしてくれる?」
「ボリジ?」
やはり銀時には伝わらなかったらしく、首を傾げていた。その様子がおかしくて、私はまたくすくすと笑った。やっぱり、わざわざ調べてくれたのね。
「不滅の愛なんか終わりにして、新しい人見つけなさい、って意味よ」
「おい」
眉間に皺を寄せ文句を言おうする銀時。しかし私は彼が口を開く前に立ち上がり、窓を開けた。
「あれよ、あの星。銀時のおかげで、私、星になれたのよ」
私は振り向かないまま、ひときわ光る星を指差した。小さくて何もない、すぐに壊れそうな、私の星。
「ありがとう、銀時。……それと、さようなら」
最後に一度だけ振り向くと、彼はこちらに手を伸ばし泣きそうな顔をしていた。
私は、窓から落ちた。
直後、玄関の引き戸が開き、女の子と男の子が入ってきた。
「ただいまアルー!」
「ただい、あれ。いま誰か来てたんですか?」
「……ああ。俺の――」
120316