小説 | ナノ

 ちょっとした悪戯のつもりだった。いつも涼しい顔で私をからかってくる宮田さんの弱みを握って反撃をしてやろう、というちょっとした、悪戯。そのはずだった。


「うう……」

「お目覚めですか」

 ぼんやりとした意識の中、彼の声が聞こえた。そっと目を開けると、薄暗闇の中、彼が浮かび上がって見えた。
――宮田さん
そう言おうとして、口が動かないのに気が付いた。猿轡……? 口だけじゃない。体も動かない。縄で、椅子に体をくくりつけられている。

「ん、んんー!」

「暴れないでください」

逃れようと体をばたつかせると、宮田さんの苛ついた声が聞こえた。

「んんんー! んー!」

しかし、頭が真っ白になった私は、なおも暴れ続けた。すると、突然。何かが頬をかすめ、私の体は凍りついた。一拍おいて、熱と痛みが込み上げる。

「おとなしく指示に従ってください」

恐る恐る彼を見上げると、鈍く光るメスが目についた。肩がびくりと跳ねる。

「いいですね、その瞳。実にそそります」

彼の唇が、狂喜に歪む。恐怖で、頭がおかしくなりそう。
なんで、こんな。ちょっと視界を見ただけじゃない。絶対に誰にも言わない。だから、助けてよ……!

「どうして欲しいですか? 口でも縫いましょうか」

ぼたりと、大粒の涙が床に落ちた。

「あぁ、殺しはしないので安心してください」

ふと、彼が柔らかな笑みを浮かべた。驚いて目を見開くと、彼は私の耳元に口を寄せ、そっと囁いた。

「あなたを愛していますから」


120316 偽宮田さん 以前のとかぶりすぎ?
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