※三角関係
教会の椅子に腰掛けて考え事をしていると、おどおどと近付いてきた牧野さんが隣に座った。
「どうしたんですか」
私がそう問うと、牧野さんは控えめの声で応えてくれた。
「あの。痣……また増えました?」
「……ちょっとだけ」
セーラー服を少しめくると、腹にあるいくつかの痣が覗いた。そこへ、躊躇いがちな牧野さんの手が伸びてくる。
「どうして……」
ひんやりとした牧野さんの手が痣に触れ、労るように撫でる。
「彼が……好きだから」
「ですが」
手の動きが止まる。彼を見ると、いまにも泣きそうな顔をしていた。私はゆっくりと首を振る。
「弟を殴ってでも止めるか、私を無理矢理にでも奪う勇気が出たら」
微笑んで、私は立ち上がる。身体中の痣が、一瞬だけ痛んだ。
「その時は、よろしくね」
言い終わると同時に扉が開いて、彼が入ってきた。
「迎えに来ました」
「うん」
駆け寄って、彼の手を掴む。黙って牧野さんに会っていた私に、彼は怒っているようだった。
「さよなら、牧野さん」
振り返って手を振ると、辛い表情ながらも、牧野さんは返してくれた。
120312