小説 | ナノ

「み、宮田さん!」

 往診の帰り道なのか、車に乗り込もうとする宮田さんを見つけた。私は宮田さんの白衣を掴み呼び止める。

「なんですか」

 私は、少し迷惑そうに振り向いた宮田さんに顔を見られないように、俯きながら早口で話す。

「わ、私、行かなきゃいけないところがあって、えっと、だから、お別れを言いに来たんです」

「……え?」

驚いているような宮田さんの声。いつもなら珍しい珍しいと騒ぐところだが、いまは時間がない。私は話を続けた。

「いままで、つ、付きまとって、ごめんなさい。それと、たまに良くしてくれて、ありがとうございました。こ……これ! 受け取ってください!」

そう言って、無理矢理白衣のポケットに私の宝物を入れた。

「そ、それじゃあ……」

さようなら、そう言おうとしたのに。突然、宮田さんに抱き締められる。離れようにも頭と腰を捕まれているため出来ない。

「……好きだ」

「み、やた、さん……」

 その言葉に、思わず涙が溢れた。一番聞きたかった、言葉。……でも、もう遅いよ。私、もう、限界、だよ……。

「わ、たじも、好きです……。だ、大好きでしだ。あ、あぁ……」

「迎えに行く、必ず」

 私は、渾身の力で宮田さんを突き離した。目の前が、ぐるぐるする。

「うぞでも、うれ、うれ、……うれじい、です。ざよ、なら、あ、宮田、ざん」

最後に、頑張って笑った。宮田さんは、なんだか悲しそうな顔をしていた気がする。

 私は踵を返し、行くべき場所へ歩を進めた。きっとそこは暗くて寒い。だけど、いつか。真の求導師様が……助けてくれる。それは、きっと……

「あ、あはぁ、あはは……あはっはははははは! あっははははははは! ……」

120312 禁忌?
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