小説 | ナノ

 蔵にいる樹月くんの隣に座ると、彼はゆっくりと、温度のない冷たい手で私の頭を撫で始めた。私は安心して、目を閉じ、彼の肩に頭を預けた。

「私、自信無くした」

 私がそう言うと、樹月くんは優しく
「大丈夫だよ」
と、言ってくれた。その言葉に、思わず頷いてしまいそうになるが、私は首を横に振り話を続けた。

「今まで、死神として、無感情に生きてるつもりだった。ただ、悪霊となる魂を狩る。それだけが私の存在意義なんだ、って……」

それなのに。樹月くんのせいで、自信無くした。
彼もこのしょう気にあてられ続ければ、悪霊になる確率は零ではない。となれば、私は彼の魂を狩らなければならない。それが、出来ない。彼だけではない。この村の魂すべて、狩れなくなってしまった。それどころか、彼のいる村に住まう人々を助けたい。そう思うようになってしまった。

「そんなこと、死神の私に出来るはずないのにね」

私に魂を救済することは、出来ない。滅ぼすことしか、出来ない。

「大丈夫。名前なら、大丈夫」

 そう言って私を抱き締める樹月くん。彼がこんなことするから、私はますます貴方を好きになってしまって、私はますます出来もしないことをしたいと思ってしまうのだ。
 2人きりの蔵には、私の咽び泣く声がよく響いた。


120226 連載したい
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