小説 | ナノ

「ぶぇっ、ぐしょい!」

 二人で近所のスーパーへ向かっていたら、おっさんみたいなくしゃみが出た。鼻を啜りながら恥ずかしいなあ、なんて隣を盗み見ると、一条さんは興味ないと言うようなすまし顔で歩き続けていた。

「一条さーん。寒いです」

 何気なしに思った一言を呟いてみる。

「そうか」

一条さんはこちらを見ようともせずにそれだけ言った。ひどい。

「一条さーん。マフラー貸してください」

 一条さんの首に巻き付いたモコモコのそれを、軽く引っ張った。すると一条さんはやっとこちらを向いてくれた。

「オレだって寒いんだ。我慢しろ」

 言って、先程よりも早く足を動かす一条さん。あ、待って。ついていけない。足長すぎるよ。

「一条さーん」

 小走りで彼の隣に並び、しつこく話しかけた。

 スーパーまであとちょっと。という所で、一条さんはようやく止まってくれた。

「ハァ」

 大きな溜め息を吐いた一条さんは、マフラーを取り、私の首に巻いてくれた。

「ほら」

「わ、わ。ありがとうございます」

 一条さんの温もりを残すマフラーは暖かくて、自然と頬が緩んだ。彼は、癖なのか最後に私の頭を優しく撫でて、またさっさと歩き出す。

「一条さーん」

 私はまた振り返らなくなった彼を呼びながら、彼を追い掛けた。

120202
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