小説 | ナノ
TITLE:いつの時代だって理不尽な
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こんな世界、亡くなってしまえばいいのに。
「そう思いませんか」
隣に座る晴明は、何も言わなかった。縁側に二人して座って、二人して空を仰いで。たったこれだけでこんなにも幸せなのに、私たちはもうすぐ離ればなれになる。ひどい、話。
「のぅ、なまえ」
「はい?」
「お主はこれで、良いのか?」
体を乗りだし私の顔を覗き込む晴明は、どこか不安げな顔をしていた。私は思わずクスリと笑ってしまった。
「では、私を連れて逃げてくださるのですか」
「それは……」
晴明はやはり口ごもる。私はふふ、とまた笑ってから、ごろりと縁側に寝転がった。
「これ、なまえ」
「どうか、お幸せに」
私を叱ろうとする晴明の唇を、自分のそれで塞いだ。すぐに離して晴明の顔を見ると、なんとも間の抜けた顔をしていた。おかしくておかしくて、私は大哄笑してしまった。釣られて笑う晴明。
本当に、これだけで心が満たされると言うのに。あなたはどこかの、私の知らぬ女を嫁にとるのですね。どうぞお幸せに。私もどこかへ嫁ぎ、幸せになりますから。
私は上体を起こし、ひょいと縁側から庭へ飛んだ。
「さよなら、――兄様」
すべて元に戻った。
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