小説 | ナノ

 TITLE:優しい人だから
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※ヒロインがひどい
 現代

 あの日、私は田村くんに呼び出された。いつもの場所に来て、って。私は知っていた。田村くんには私なんかよりもずっと好きな人が出来たことを。田村くんはお別れをするために私を呼び出したことを。

 けれど私は寂しがりやだから。田村くんのことがすごくすごく好きだから。この前映画で見た安直な方法で田村くんを引き留めた。

 結果、田村くんは私を捨てなかった。嬉しかった。例えこの足が二度と動かないのだとしても。

「田村くん」

「……な、に?」

 だって田村くんは、一生私を思い続けるんですもの。それが愛じゃなくてもいい。なんだっていい。

「私のこと、好き?」

「好き、だよ」

偽物だっていいの。

「私もよ」

田村くんはベッド脇の椅子に座って下を向いたまま。私が話しかけると膝の上でぎゅうと拳を握りしめる。

「あの日から半月ね」

こんなときは田村くんの嫌いな話をする。田村くんは案の定顔を上げて今にも泣きそうな目で私を見てきた。

事故から半月。私は病院のベッドの上。足はズタズタ。あの日、田村くんの目の前で道路に飛び込み、トラックに轢かれたから。死んでも生きても田村くんの心に一生残るのならいいと思った。田村くんは優しい人だから。きっと誰も愛さず私を死ぬまで思ってくるだろうと。

「田村くん、」

 疲れたでしょ。私を突き放してもいいんだよ。嫌いだって言って、あの子のところに行ってもいいんだよ。私なんか忘れて幸せになってもいいんだよ。ごめんね。田村くん。ごめんね……

「一生傍に居てね……?」

そうさせないのは、私なのに。

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