ロールキャベツ(アマ燐)
※一応原作寄りですが時間軸不明なアマ燐。というかアマ→燐。
※後半はCP成立前のはずなのにいちゃついてます。
※アマが猫舌設定。というかアマが弱ってます。
※ロリア様の優しいお言葉を励みに書いたにも関わらずやはりオチが弱いです。誠に申し訳ありません。作者はブラウザ前でV字腹筋を30回行い痙攣起こしています。



兄上のお仕置き部屋もといお菓子の鳩時計は可愛らしい外見に反して兄上お得意の空間形成魔法だけあって性能は全く以て可愛くない。何も見えず何も聞こえず何にも触れることのない真っ暗闇というあの鳩時計の中でなら本気で退屈死するのも夢ではない。人間なら狂い死に決定だろう。その中に閉じ込められてからどの位時間が経ったかも判らなかったが、とりあえず奥村燐と遊んで出来た傷は癒えたのでそれなりの時間は経過したと思われる。青い焔で焼かれた傷は他の傷より治るのが遅く、また傷は消えても内側がじりじりと燻っているような感じが続いた。だが、それがイイ。あんなに楽しかったのは久しぶりで、つい興奮して兄上にも無体を働いてしまった。自分が退屈死しなかったのは瞼を閉じる度に青い焔を纏う末の弟の姿と、熱した刃で肉をぐりぐりと執拗に抉るような痛みを繰り返し思い出していたからに違いない。

「奥村、燐。燐、燐、りん……」

何度も何度も繰り返し呼ぶ弟の名前。
また燐に逢いたくて。また燐に遊んで欲しくて。また燐にボクだけを見ていてほしくて。また燐にボクのことだけ考えてほしくて。
燐のことばかり考えていたら、いてもたってもいられなくて。つい奮った拳が兄上の魔法を破ったのには自分自身が一番驚いた。しかし運よく出られたはいいが、あの鳩時計の中では魔力も相当吸い取られたらしく足取りがおぼつかない。それに視界もぼやけているし、お腹もすごく減っている。
霞んだ目で辛うじて出てきた場所がどうやら物質界、しかも兄上の結界の中である正十字学園らしいということは認識できたもののそこから離れるほどの力は残されていなかった。
嗚呼、またすぐに鳩時計の中に逆戻りかな。
そんなことをぼんやり考えながら冷たい石畳の上に膝から崩れ落ちる。頬を濡らすものから冷たいのはどうやら石畳だけが原因じゃないことに気づく。久々に聞くものだから認識するまでに時間がかかったが、ザァザァと土砂降りの雨が降っているのだ。
雨に打たれながら物質界で野垂れ死になんて地の王の名が泣くかもしれないが、ボクにとってそれは大した問題じゃなくて。

「燐……」

燐にもう二度と会えないことの方が心残りで仕方がない。

「……おい、大丈夫か?」

だから重い瞼を閉じたときに聞こえたその声も、ボクの想いが作り出した幻聴だと思っていた。





くつくつくつ。
何かが静かに煮立っている音が遠くから聞こえた。聞いているとなんだか心が落ち着くよな、そんな音。
瞼はまだ重くてなかなか開かないけれど、体を覆っている柔らかいものが暖かくて気持ちよくて。目を瞑ったまま自分の方へと手繰り寄せ、もそもそと顔を埋める。体の下は少し硬いものの石畳に比べれば格段に柔らかい。
そういえば自分は道端で倒れて雨に打たれていたはずなのにいつの間に移動したのだろう。
まさか兄上が助けてくれるとは思えないし、意識を失った自分が屋内に一人で移動するとも考え難い。
それに先ほどから鼻を擽る美味しそうな匂いに混じって漂う、この堪らない匂い……。

「りん……?」
「ん?あー、漸く目ぇ覚ましたか」

重い瞼を開くと逢いたくて堪らなかった燐の姿が目に入る。力の入らない体を無理やり起こして手を伸ばせば、燐はその手を握りしめてからもう一方の手をそっとボクの頭の上に置く。

「無理するな。しんどいんだろ?」
「……ボクのこと、殺さないんですか?燐の大切なものをたくさん傷つけた。憎いはずでしょう?」

この間の時とは違い、全く敵意のない燐が不思議で首を傾げて掠れた声で尋ねれば燐は難しそうな顔をして唸った。

「あ〜……まぁ確かにあんときはすっげー腹立ったけどさ。でも結局皆生きてるし、今は元気だし。オレは悪魔でも祓魔師で、悪魔が悪さすりゃ倒すけどさ。でもクロみたいなのもいるから、ただ殺すっつーのはオレの流儀じゃねぇんだよな……」
「甘いですね」

正直な感想というか事実を述べれば燐は唇を尖らせて顔を赤らめる。そしてボクの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で始めた。

「うっせ。そんなこと雪男から耳にタコができるまで聞かされてるから知ってんだよ。でもオレはオレのやりたいようにするさ。だから弱ってる今のお前とは戦わない」
「つまり今のボクとは遊んでくれないんですか」

がっかりして俯き、ぼそりと呟けば燐はボクの頭から手を放して額をちょんと小突いてきた。その些細な刺激が弱体化している体に響いて微妙に痛い。

「『今のお前とは』って言ったろ?元気になったら考えてやる」

嬉しい言葉に勢いよく顔をあげれば歯を見せて屈託なく笑う燐の顔が眩しくて目を細める。不覚にもその笑顔に見惚れていたら、燐が何かを思い出したように声をあげた。

「っと、そろそろ味もしみこんできた頃か」
「?」

言葉の意味が解らず黙って見ていると、燐は傍にあるミニテーブル(確か兄上も持っている卓袱台とかいうもの)の上にのっていた土鍋(これも兄上が持っていた)の蓋を取る。
くつくつくつ。
先程耳に入ってきた優しい音の原因がそこにあった。

「これは……」
「ロールキャベツだよ。お前が寝ている間に下で作って持ってきたんだ。土鍋に入れとけばずっと火にかけなくていいし、よく味がしみ込むからな」

土鍋の中にはうっすらと赤いスープが張っていて、その中にぷかぷかとキャベツの塊が浮いている。ケチャップの甘酸っぱい匂いと挽肉の食欲をそそる匂いが混ざり合って、自然と口の中に唾液が溢れてきた。同時に忘れていた空腹感が強烈な自己主張を始め、ぐぅぅと大きな腹の虫が鳴る。燐が声をあげて笑い、土鍋からロールキャベツを一つ小皿に移してボクに差し出す。

「よっぽど腹減ってたんだな。ほら、遠慮せずに食え!」
「……イタダキマス」

日本式の食事の挨拶をして手を合わせれば燐は満足そうに笑って頷く。箸という道具はなかなか難しいが、今はとにかく空腹を満たすため形振り構ってはいられない。言われた通り遠慮なく握った箸でぶすりとロールキャベツを突き刺して口に運ぶ。

「あ、馬鹿っ!」
「〜っ……!?」

自分は悪魔の中でも打たれ強い方で切り傷も火傷も本来ならば意に介さないことが多い。しかし今は弱体化している上に、熱い食べ物には不慣れということもあって口の中にじゅわっと広がる熱い肉汁に目を見開いて口を抑える。慌てて咀嚼してひりひり痛む舌でなんとか喉奥に送り込めば喉元過ぎれば何とやらで少し落ち着く。

「りん、あついれふ」
「ロールキャベツを一口で食う奴がいるか。ったく、しょうがねーな」

水で火傷した舌を癒していると燐は新たに土鍋からロールキャベツをとりだして小皿に移す。そしてボクとは違う正しい箸遣いでロールキャベツを二つに割る。キャベツの煮汁と中の挽肉の肉汁が合わさった熱い汁が滲み出る断面を見て先ほどの自分の行為がいかに無謀だったかを思い知る。

「ちゃんと冷ましてやるから落ち着いて食えよ?」

箸で持ち上げたロールキャベツを口元に運び、ふぅふぅと息を吹きかけて冷ましたソレを燐はボクの口元に運んだ。

「ほら、あーん」
「あー」

大きく開いた口に運ばれたロールキャベツは程よい温さで、先程はよくわからなかった旨味をしっかり味わうことができた。程よい酸味と甘みがくせになる優しい味。

「おいしいれふ、りん」
「ちゃんと飲み込んでから喋れ」

苦笑する燐に窘められ、ボクはしばし食べることに集中する。こんなに食べるという行為は楽しかっただろうか?先ほどから感じる『優しい』というキモチはいつからボクの中にあったのだろうか?
わからないことはたくさんあるけれど、こんなに満たされたキモチになったのは初めてのことで。はっきりしていることはただ一つ、じわじわと体の中を焦がす熱が教えてくれた。

ボクはもう燐無しでは生きていけない。






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