ティラミス(メフィ燐)
※エクレアかティラミスということでティラミスの方を作らせていただきました。
※渦様の知っておられる語源と違いましたら申し訳ございません。
※多分既に付き合っているだろうメフィ燐です。
※渦様の温かい応援にこたえるべくコアリ○ムで、1.2!1.つ…(グキィッ←腰)ぎああああ!!






睡眠時間一時間。
それを聞いたときは何かの冗談かと思った。
しかしいつも飄々としたこの男の顔をよく見てみると肌は月のように青白く、垂れた眼の下には濃い隈がありありと浮かんでいて不健康そのもの。
正十字騎士団日本支部支部長であり正十字学園理事長である男の責務というものは自分には想像もつかないほどの激務らしい。

(ジャンクフードが好きなのも実は食事に時間を割きたくない、とか?)

アニメやゲームが大好きな男のこと。きっと仕事の合間の僅かな時間も趣味に費やしているであろうことは想像に難くない。

「……だからってなぁ」

定例の小遣い交渉で訪れた昼下がりの理事長室。
先日貰った鍵を使って中に入ればいつもは皮肉の一つ二つで出迎えてくれる部屋の主が全くの無言で。
恐る恐る歩み寄れば、机の上には積まれた書類と携帯ゲーム機、そして眠りこけた男…メフィストの顔があった。
携帯ゲーム機の中では黒いショートカットで青い吊り目の少女が『お兄ちゃん!』なんて頬を染めている。
なんだか無性に面白くなくてゲーム機の電源を切ってやる。

「二次元ばっか構ってんじゃねーよ」

青味がかったメフィストの髪を前指で撫で、白い額にデコピンをお見舞いすると何となく起きそうな気配がした。しかしオレはメフィストの瞼が開く前にそそくさと寮へと戻ることにした。
寮に着いて自室に戻るより先に向かったのは厨房。ウコバクに許可を貰ってしばし独占させてもらうことにする。雪男には「まるで主婦みたいだ」と笑われたのだが、何か心に靄がかかった時料理に打ち込むとスッキリすっきりするのだ。
制服を汚さぬようエプロンを身に着け、手を洗いながら頭に浮かぶレシピは一つ。難しいと思っていたものが案外簡単に作れると最近テレビで知り、早速作ってみようと思い立ったのだ。

「まずはコーヒーを沸かしてっと……」

勿論ここでは喫茶店のように上等なコーヒーは淹れることなんて出来ないからインスタントコーヒーを用意する。そして出来上がったブラックコーヒーにグラニュー糖とブランデーを入れる。グラニュー糖はある程度の熱さがないと溶けにくいのだがブランデーの方は熱すぎると風味が飛んでしまうのでグラニュー糖を入れてから少し冷ました後にブランデーを入れる。これでコーヒーシロップが完成する。
次に器にビスケット、余計なものが入ってないシンプルで出来れば甘さ控えめなもの、を敷き詰める。そしてビスケットに先ほど作ったコーヒーシロップをかけて染み込ませる。

「シロップが染み込むまでクリームの方作るか。しかしチーズ高かったなぁ……」

値段を思い出すとため息が出てしまうが、奮発して買ったマスカルポーネチーズに卵黄を入れ、だまにならないようにかき混ぜる。このチーズと卵黄をかき混ぜたボウルAのほかにもう一つ、生クリームとグラニュー糖を泡立てたボウルBを用意する。そしてボウルBにボウルAを少しずつ加えていく。それからさっくりと混ぜ合わせ、シロップがしみ込んだビスケットの上に流し込んで冷蔵庫で冷やす。ゼリーのようにしっかり固めるものではないので長い時間は必要ない。そして最後の仕上げにココアパウダーにインスタントコーヒーを少量混ぜたものをふりかければティラミスの完成だ。
皿に盛りつけ、しえみから貰ったミントを添えれば既製品に決して見劣りしないだろう。満足いく出来に自然と顔もほころぶ。

「よし、あとは……」









「……私としたことが、」

気が付けば窓から差し込む光は弱い橙となり、部屋の暗さから夜の帳が落ち始めたことは明らかだった。
悪魔は人間のように定期的な食事や休息は必要ない。しかし人間よりポテンシャルが高くタフだといっても腹も減れば疲れもする。
かくいう私も疲れていたのだろう。
今までしたことのない居眠りというものをしてしまったらしい。
たしか溜まっていた書類を片付けて休憩がてらに携帯ゲーム機で今ハマっている恋愛シュミレーションゲームをしていたはずなのだが、どこでセーブしたのかいつ電源を切ったのかも記憶にない。
すっかり人間じみたものだと他人事のようにため息をついて頬杖をつけば覚えのない皿が目に入る。

「これは……」

皿の上にあるのは間違いなくティラミスだった。
既製品にしては少し形が歪な気はするが食欲をそそるには十分な見た目と匂い。
そして傍にはご丁寧にも紙ナプキンとその上にフォークが置かれていた。

「おやおや、また可愛らしいことをする」

部屋に明かりを灯すと紙ナプキンに書かれた走り書きに気づき、その内容に思わず笑みがこぼれる。

『つかれたときはあまいもんがいいってユキオが言ってた! あと、こずかいあげろ』

決してうまいとは言えない字は今自分が二次元の美少女以上に愛してやまない最愛の弟のもの。
一応彼なりに自分のことを心配してくれたらしい。
普段自分に対しては素っ気ない態度をとることが多いだけにこういうデレは貴重で嬉しいものだ。
ありがたく手を合わせてから手を付ける。
甘さ控えめでコーヒーの苦みがよく効いている。クリームの口当たりもいいし、マスカルポーネの爽やかな酸味も良い。

「美味しいですね。しかしティラミスというチョイスは、ふむ……」

いい意味でも悪い意味でも無知な彼のこと。深い意味はないのだろうが、ティラミスの語源を考えるとここでじっとしていては男が廃るというもの。
席を立ってマントとシルクハットを身に着け、空になった皿の上には封筒に入った紙幣を乗せる。

「さぁ、お返しといきますか☆」



(私を元気づけて!)



君からの美味しいSOS、いただきました。


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