かき氷(蜜海逃避行 アス燐)
※蜜海逃避行の更新強化とのご要望があったので蜜海逃避行設定でアス燐を書いてみました。
※蒼珠様のリクなのに誰得?俺得!で誠に恐れ入りますすみません。
※かき氷より別の行為が目立っているような気がするのは錯覚……ではありません。
※メフィ燐とアマ燐は本編の方での活躍をお待ちくださいませ。
※蒼珠様が少しでも楽しんでいただけることを祈って逆立ちに挑戦してみま…アーッ!!






燐が14になって少し経った頃。
四季が存在しない虚無界にサタンが気まぐれで「夏」を再現したことがあった。
これはそんな中、仕立てはいいのに全くサイズの合っていないダボダボの白いシャツ一枚を羽織って素足で城の中をうろついていた魔神の落胤と、それを見かねた腐の王の日常の一コマである。



「こんなことしなくたっていいのに」
「いけませんよ、若君」

まるで風船のように頬を膨らませる燐を蒸し暑い中ボタン一つ外さずタイも緩めていないアスタロトが涼しい笑顔で窘めた。しかし、ただ窘めるだけでは終わらず「氷菓子がありますから」なんて甘やかすのだからアスタロトがどれだけ燐に甘いかが窺い知れる。
燐はといえば、アスタロトが差し出したかき氷を見るなり先ほどまでの膨れっ面が嘘のように目を輝かせている。さらさらとした新雪の如きかき氷にかかっているのはココナッツミルクと練乳にマンゴーのシロップ。更にタピオカと干し杏、クコの実が添えられたソレは燐の知るかき氷とは明らかに違っていた。しかし連日の真夏日に冷たい物を切望していたし、幼いながらにエキゾチックな魅力を感じ取ったのか嬉しそうに尻尾と両足をぱたつかせながらかき氷とアスタロトを交互に見つめる。

「これかき氷か!?なんかすっげー!食べていいのか?食べていいのか?」
「ええ、どうぞ召し上がってください。その代りにその間のお時間を戴いてもよろしいですか?」
「ああ、いいぞ!」

そんな燐の様子に満足そうに頷いたアスタロトは珍しく鼻歌なんてものを歌いながら白い手袋をはめた手を叩く。すると何もない宙から広げた両手に乗る程度の大きさをした木箱が現れた。木箱といっても貧相なものではなく、精緻な牡丹が彫られた匠の一品だ。
その中から取り出されたのはガラスの爪やすりをはじめとしたネイルケア用品。
椅子に座っている燐が投げ出した引き締まったしなやかな足を天鵞絨張りの足置きに乗せ、その前に跪いたアスタロトは嬉々として手入れを行う。
まずは何種類かのやすりを使い分けて丁寧に爪の形と表面を整える。それから爪の付け根にクリームをつけて軽く揉みこんだ後に指先をぬるま湯にしばし浸してもらい、甘皮を柔らかくしてから裂いたコットンを巻きつけたオレンジスティックで優しく押し上げ余分な部分はリッパーで取り除く。そして仕上げに香油で丹念に膝から指先まで丹念にマッサージを行い、蒸しタオルで香油を拭き取る。しかし香油を拭き取ってもイランイランとローズ・オットーにパチュリが混じったオリエンタルで甘い匂いは肌に残り、熱い空気と燐の体温に温められて匂いたつ。まだ幼い燐の容貌が官能的な香りを漂わせているのはどこか不釣り合いで、それ故に背徳的ないやらしさを感じさせるのだが……。

「あ〜、頭キンキンしてきた〜」
「ゆっくり召し上がって下さい。誰もとりませんから」

全く以て無自覚な幼い主にアスタロトは苦笑を浮かべる。
悪魔といえば欲望に忠実なイキモノだが、長く生きている高位の悪魔となればそれ相応の落ち着きを持っている者もいてアスタロトもそんな稀有な悪魔だ。
仕えるべき主にこんな劣情を抱くなんて、と人間の僕なら思うのだろうが生憎とアスタロトは主に忠実といえどもやはり悪魔の為そういう思考は持ち合わせていない。
ただし、今此処で欲望に流されてしまうのは利口ではなく、着実に燐の信頼を得て距離を縮めた方が上策であろうといった打算的思考は十二分に持っていた。
故にアスタロトは燐に「まだ」手を出していない。

「アスタロトも食うか?」

他意は無いに違いない、幼い主の無邪気な気まぐれにアスタロトは曖昧な笑みを浮かべて首を横に振る。

「いえ、私は氷菓子の類が苦手なので」
「え、なんで?」
「氷は溶け消えてしまいますから」
「?」

儚く可憐に消えるものよりゆっくり腐り落ちるものの方が美しく美味である。
切子の器の中で溶けゆくかき氷に目を細め、アスタロトはまだ語るべきでない真実と欲望を封じた唇を燐の踝に落とした。



(ああ、貴方が南国の果実のように甘く芳しく腐敗する日が待ち遠しい)






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