2.
※捏造アスタロト出てきます。見た目は成長した白鳥君(20代後半)、中身は紳士というか騎士?
※燐は14歳くらい。






地の王の城は虚無界にいくつかある城の中では小さい部類に入る。
それは王であるアマイモンがすぐに壊してしまう為無駄な装飾や部屋を極力減らした結果であり、彼の力が他の王たちより劣っているというわけではない。
その小さい城が虚無界で最も賑やかな城になったのは何時からだったか。
正確な時期は忘れてしまったが、それは間違いなくその城にもう一人の主が来てからだろう。
連日連夜、小鬼からそれなりに力のある貴族の悪魔までがもう一人の主を一目見ようと地の王の城に足繁く訪れていると聞く。
かくいう自分もそのもう一人の主に会いたくて、こうして執務の間を縫って自分の城からかなり離れた地の王の城へとやってきているのだ。

「若君、」

地の王の城に住まうもう一人の主。それは私の父であり敬い従うべき絶対のカミであるサタンの末息子で名前は燐といった。血の繋がりでは私の末の弟にあたるが、自分の中で彼は他の兄弟とは全く違う存在だ。物質界で生まれ育ったといのも異例だが、それだけではない。
明るい象牙色の肌に闇色の髪、深く吸い込まれそうな気高い青の瞳。そして父の力の象徴でもある青い焔を受け継いだ燐はいわば新たなカミ。
つまり私が仕えるべき若き主でもある。

「あれ、アスタロト。珍しいな、お前が此処へ来るなんて」
「……そうですね。本当はもっとお目にかかりたいのですが」

私が燐、若君になかなか謁見できない理由はいくつかある。一つは多忙であること、もう一つは自分の住まう城と若君が住まう地の王の城が離れているということ。そして最後の一つが最も大きな理由である。

「気にすんなよ、お前は兄弟の中で一番忙しいんだろ?オレに構ってる暇なんかねぇよな」
「若君、誰がそのようなことを」
「メフィ兄とアマ兄」

メフィストとアマイモン。
今最も若君に近しい場所にいるこの二人こそ、自分にとって最大の障害であった。
偶然物質界を訪れたアマイモンが若君を見つけて虚無界にお連れした経緯があってか若君はアマイモンに心を許しておられる。それはまだ許容できるが、許せないのはそこにアマイモンが兄として慕っているメフィストが便乗してきたことだ。虚無界での執務を放り投げ、物質界で人間遊びにうつつを抜かしているこの放蕩息子を私は昔から快く思っていない。はっきり言ってしまうと殺したいくらい嫌いだ。

「……して、その二人は今どこに」
「わからない。時々二人でいなくなっちまうんだよ。聞いても秘密だっていうし」
「それはそれは。困った兄弟達ですね」

唇を尖らせて不満そうに語る若君の姿に思わず苦笑が漏れるが、心の底では若君を放ってこそこそと良からぬことをしている二人に腸が煮えくり返りそうだった。
若君の手前二人のことを悪く言えない為、なんとか平静を装い話を逸らす。

「そうだ若君。今日は若君のお好きな物質界の菓子をお持ちしたんです」
「本当か!?」

嬉しそうに目を輝かせる若君は本当に幼くて愛らしい。未熟な精神はカミとして不安なところではあるが、その身に宿した大きな力と高貴な魂に見合った精神が作られるまで見守り導くのが父の忠実な僕であり八候王の一角である自分の役目であると私は信じている。
手にした艶を消した黒い箱に巻かれた光沢のある青いリボンを解いて箱を外せばパティシエとして名のある人間が作った菓子、チーズケーキが露わになる。自分は人間の作った菓子の美味さは理解できないが、このチーズという牛や山羊といった動物の乳を発酵させた食品に関してだけは例外だ。ワインにも合うし、何より鼻と舌を楽しませる独特の発酵臭が良い。

「おおー、美味そうなベイクドチーズケーキじゃねぇか!ありがとうな、アスタロト!」
「若君に喜んで戴けて光栄です」
「兄弟だからそんなに畏まらなくたっていいっつってんのに。あ、そーだ。ウコバクに茶を淹れて貰うからアスタロトも一緒に食べ…」
「臭い」

若君が嬉々として使い魔を呼ぼうと金の呼び鈴を手にしたところで不愉快な声が降ってきた。声の持ち主は明らかで反射的に目を細めて歯軋りする。

「メフィ兄、」
「全く、結界に歪が出来ているかと思ったらやはりアナタでしたか」
「書状なら送ったはずだが」
「脅迫状の間違いでは?」
「人間の世界で言うならば捜査令状といったところか。主上も若君のことを心配されておられるし、私個人としても不真面目極まりない二人だけに若君のことを任せるのは心許なくてな」

当然のように若君の隣に腰掛ける白い道化のような服に身を包んだメフィストと火花を散らせていると、向かいに座っておられた若君が悲痛な声を上げて立ち上がられた。

「どうしました、若君」
「あ、アスタロトが持ってきてくれたケーキが……!」

サロンのテーブルの上にのっていた箱からチーズケーキは姿を消していて、無残にも欠片が散らばっているのみ。
そしてありえないほど頬を膨らませたアマイモンが天井からぶら下がっていた。

「あ、アマ兄のばかー!」
「……ん、ンぐ、ぷは。まずい」
「燐君、アマイモンは毒見してくれただけですよ。ほらお菓子ならもっと美味しいものを私が出してあげましょう」

わざとらしい口ぶりで若君を慰め宥めるメフィストが一瞬こちらに視線を寄越してにやりと口角を上げた。そしてわざわざ念話でぼそりと呟く。

『腐ってるものを食べて燐君が具合を悪くしたらたまりませんからねぇ』

それがメフィストが私の中で殺したいくらい嫌いな奴から、殺しても殺したりないくらい大嫌いな屑に降格した瞬間だった。
この後地の王の城は十何度目かの崩壊を起こすことになる。










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