1´.
※前回より急降下。心臓にご注意を。
※痛い描写あり(肉体的にも精神的にも)。
※どんな酷くても悪魔でアマ→メフィスト、アマ→燐前提のメフィアマメフィです。
※ダメな方はこの話は読まないで次回へ飛んでください。























「どういうつもりだ、アマイモン」

冷たい兄上の声が大気を、そして自分の鼓膜を震わせる。
自分の意思とは関係なく肌が泡立つのを感じながらも、微塵も逃げ出したいとは思わなかった。
自分の領域であるはずの城の中で兄上が喚び出した黒い蔓に自由を奪われ、蟲のように地面に這い蹲らされる。
ぎりぎりと手足をもごうとするかのようにきつく巻きつく蔓が肉を裂き、辺りに自分の血の匂いが充満する。
渾身の力を込めても顔を上げるのがようやくで、そんな自分の惨めな姿を兄上が本当に蟲を見るかのような目で見下ろしていた。

「何故、あの子をこちらへ連れてきた」

『あの子』。
その言葉で兄上の表情と声が一瞬和らぐ。
兄上の視線の先には金色の巨大な鳥籠があって、その中では幼い少年が深い眠りに落ちて横たわっている。
一見人間にも見えるこの少年だが、その体に流れる血はこの世界で一等尊い青。
虚無界の神であり、自分にとっては父でもあるサタンの落胤。
自分の最初で最後のトモダチで、最愛の弟。

「燐はボクの弟ですから。傍に置いておきたいと思うのは自然でしょう?」

正直に答えるや否や兄上の傘が左目を抉った。
普通なら悶絶するほどの痛みなのだろうが、生憎と自分は痛みには鈍感で。
一つになった眼で不機嫌な兄上の顔をじっと見つめる。
苦しくはない。怒りもない。悲しみなんて知らない。
兄上が自分をどんなに虐げようとも、自分が兄上をどんなに不機嫌にさせても、自分はこの狡くて美しい残酷な兄上を慕っているのだから。

「それに、燐がここにいれば兄上も虚無界にお帰りになられるのでしょう?」
「……馬鹿なことを」

転がった眼球をぐしゃりと躊躇なく踏みつぶした兄上は溜息をついて帽子をとり、それで口元を隠しながら汚れた靴底を見せる。

「舐めろ。そうすれば今日は片目で済ませてやる」
「はい」
「あと仕置き部屋を用意しておけ。……可愛い末の弟には見られたくないだろう?」
「はい」

兄上の顔を見つめたまま舌先が痺れるほど苦くて塩辛い靴底を舐める。
帽子で隠した口元はきっと歪んだ三日月を象り自分を嘲り笑っているに違いないけれど。明日からは酷い責め苦が待っているのかもしれないけれど。
兄上が今自分だけを見ていてくれることと、末の弟と暮らせることがこの上なくシアワセで、堪らない。





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