1.


どうしたものか。
お気に入りの安楽椅子に深く腰掛け、シルクハットを目深にかぶって両手を組んだままため息をつく。
ゲームに予想外のハプニングはつきものだ。むしろソレがあるからこそゲームは楽しい。しかし今回のハプニングばかりは素直に楽しめない。

「めーにぃー」
「なんですか、燐君」
「抱っこ!」

悪魔の中の悪魔である私が駒であるはずの末の弟に骨抜きになってしまったなんて、これじゃあゲームどころではない一大事。
そもそも事の発端は運命の性質の悪い悪戯。
虚無界でも破壊者として有名な弟と末の弟が物質界で遭遇して、しかも意気投合してしまったのが始まりだった。
末の弟の育成は自分にとって唯一の友人ともいえる藤本に一任していたので監督不行き届きだと苦情を言ったら『てめぇが厄介な任務押し付けたから燐から離れなきゃいけなかったんだっつーの!』と逆ギレされ、渋々ながら当初のプランに修正を加えることになったのが先月の話。
そして今現在、物質界で育てるはずだった末の弟は虚無界にいる。

「幸いまだ体も精神も幼い為父上も手が出せないようですね」

物質界を支配する鍵として末の弟に執着している父上ことサタンは彼が虚無界にやってきたことを非常に喜んだ。それこそ虚無界の神としての威厳が保てないくらいに。まず第一声が『燐ちゃん、本当のパパだぞ〜。感動の対面を祝してチューしよ、チュー!』だったことからして既に終わっていたが、年端もゆかぬ末の弟の『ヤ!』という一言で撃沈、今ではちょこちょこ末の弟がいるアマイモンの城に贈り物をしたり陰からこそこそ眺めていたりする程度で気持ちが悪いほど静かだ。

「めー兄、どうしたの?」
「ん、なんでもありません。今日のおやつは何にしようか考えていただけですよ」

心配そうに顔を覗き込んできた末の弟の可愛らしさは疲れた心身を癒してくれる最高の薬だった。
抱き上げた小さな体を膝上に乗せ、柔らかな黒髪を撫でてやればはにかんだように笑う。

「オレ、マシュマロの入ったチョコが食べたい」
「そうですか。ならさっそく用意させましょう」

今は頭の痛いことはすべて忘れて、甘いお菓子より更に甘い末の弟とのひと時を楽しもう。
全てはこれから。
彼の成長次第なのだから。






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