※拍手お礼文として掲載。
「なんだ、コレ?」
「スミレの砂糖漬けです」
「スミレ?」
ジャンクフードが大好きなメフィストのお気に入りの菓子は健康への悪影響を疑わずにはいられない派手な色合いのものが多いが、その日燐がメフィストの執務室で見つけた可憐な菓子は珍しく自然な美しい色をしていた。
「そういやサラダに入れる食える花っていうのもあるんだっけ。食ったことないけど」
「じゃあ試しに一つ」
「え〜……」
「ドウゾ☆」
なんとなく食べるのは花ではなく実、という感覚が染みついているせいか渋い顔をする燐にメフィストはガラスの壺から粉雪を纏ったかのような小さなスミレを取り出して口元へ運ぶ。
NOと言わせない強制力がある満面の笑みに燐はささやかな抵抗を諦めて大きく一つ息を吐く。
「わかった。ホラ、さっさと寄越せ」
そうして燐が目を閉じて餌を待つ雛鳥のように大きく口をあけると、その姿を見たメフィストの脳裏に邪な考えが浮かんだ。
にやりと唇の端をつりあげ、燐の口元から一旦手を引く。
そんなことは露知らず、燐は目を閉じたまま未知の味を待っていた。
何故燐が目を瞑っているのかというと、『花という視覚的イメージが食欲を削ぐなら、見なければいい。オレって天才!』という理由である。
そして視覚を遮断した分、敏感になるのは味覚や嗅覚。
スミレの花の強すぎない香りに誘われて舌を出せば、砂糖のざらっという触感と花弁のしっとりとした触感の二つの触感と共に飴玉より強いが角砂糖よりかは控えめな甘さが広がる。
想像していたよりもずっと良い味のそれに気を良くした燐はより深く味わおうと舌を丸めるが、そこである違和感に気づく。
(なんか、くすぐったい……?それに柔らか……っ!?)
そのくすぐったさと柔らかさには覚えがあった燐は閉じていた眼をカッと見開く。
そこにあったのはメフィストの手ではなく、メフィストの顔。
くすぐったさの原因はメフィストの髭で、柔らかかったのはメフィストの唇。
そして今まで味わっていたスミレの砂糖漬けはメフィストの舌の上にあったものだということを瞬時に理解した時にはもう手遅れだった。
「ふっ…ぁ、ン!」
メフィストの甘い舌は燐の頭から爪先まで痺れさせて全身から力を奪った。
そして腕の中で燐がくったりした頃、メフィストはようやく唇を離したものの唾液で濡れた唇に更に長い舌を這わせて悩ましい燐の顔を堪能する。
「可愛いですね、燐は」
「〜っ、め、メフィストの、変態……」
「燐が誘うからですよ」
誘ってなんかいない、燐がそう反論する前に唇は再びメフィストの唇で塞がれた。
一度合わせた唇をずらしながら、目を細めたメフィストは熱っぽい声で囁く。
「燐、もう一ついかがですか?」
「……ばか」
メフィストの背中に回した燐の腕にぎゅっと力がこもる。
「あと一つなんて言わず、全部寄越せよ」
(その貪欲さは父上譲りですね)
そんなことを考えながらも口には出さず、メフィストは笑みを深くして燐の白い喉を舐めあげた。
「ええ、勿論。燐が満足するまで差し上げます。いくらでも、ね?」
砂糖漬けの青い花