ヌガーチョコレート(メフィ→アマ燐)
※棒付き飴の設定でメフィストが盛大に一人楽しすぎる感じになってます。







「アマイモン、お前に末の弟と遊ぶ場所をやろう」

そう切り出したのは自分。
サタンの落胤であり自分にとっては末の弟、奥村燐。
彼を虚無界・物質界の両世界をまたにかけた一大喜劇を盛り上げる主演に育て上げるための一手段として、複数いる弟の中から選んだのが地の王・アマイモンだった。
選んだ理由は単に曲者揃いの兄弟の中でアマイモンが最も扱いやすかったからである。
しかしこの選択は誤ったかもしれない。
シナリオが狂い始めたのはどこからだっただろうか。
考えて思いつくのはアマイモンが奥村燐に興味を持ち始めたその時から。

『兄上、奥村燐と遊んでいいですか?そのためにボクを呼んだのでしょう?』

虚ろな悪魔の瞳に微かな光が宿ったのを錯覚と見逃したのは失態だった。

「当て馬にしてやられましたね」

正十字学園の制服に身を包んだ弟二人がじゃれあいながら寮へと帰る姿を窓から眺めていると自分の手元でぐちゅっと耳障りな音がした。

「おやおや、私としたことが」

中にヌガーが入ったチョコレートが手の中で潰れ、白い手袋がねっとりとしたヌガーとどろりとしたチョコレートで台無しだ。
口に入れば濃厚な甘さが堪らない菓子もこうなってしまっては不快以外の何物でもない。
それでも未練がましく舌を伸ばしてヌガーとチョコレートを舐め掬うと、絡み付いてくる甘さに目を細める。

「……『裏水盆に返らず』とは言いますが、それを返してみせるのが悪魔の所業でしょうね」

暗い部屋で己に言い聞かせるように独り言を洩らす。
細めた目は末の弟から離せず、汚れた手袋を口を使って外すともう一人の弟がこちらの視線に気づいたのか振り向いた。

「!!」

ここからでは声は聞こえない、否、実際に声など出していないだろう。しかしパクパクと動く唇から言葉を読み取ることは容易だった。
目を軽く見開き、口にくわえていた手袋をぽとりと床に落とす。

『悔しいですか?』

自分に従順だった猛犬はもういない。
あそこにいるのは飼い主よりも甘いものに魅入られた、ただの狂犬だ。

「困った弟だ。余程私の仕置きが欲しいと見える」

自嘲的な笑いが堪えられず、思わず安楽椅子から立ち上がり顔を覆う。声は次第に大きくなり、最後には部屋中に自分の笑い声が響き渡る。
立ち上がった時床に散らばった手袋とチョコレートは踏まれて見るも無残な姿となってしまった。
それでも私の笑いは止まらない。

「いいだろう、ならば私も舞台に上がるまで」



そう、私もまた喜劇の役者となろう。









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