ネバネバ丼(アマ燐)

「燐、これは一体なんていう食べ物ですか?」

アマイモンが虚ろな目で一点を食いつくように凝視している。
彼は『ソレ』に対して酷く興味をそそられたようだ。
『ソレ』とは、彼の弟である燐が持ってきた物質界の人間の食べ物。
虚無界にいれば別に定期的に摂る必要のない食事も、物質界において人間を媒体にして存在している以上人間が必要な食事は定期的に摂らないと活動に支障が出る。
アマイモンにとってそれはとても煩わしいことだったが、兄のメフィストがすすめてくれた物質界、特に日本の菓子の類の味が気に入って以来食に対して貪欲になった。
そして最近アマイモンの食欲に拍車をかけているのは弟の燐が作る手料理である。

「ネバネバ丼だよ。名前の通りネバネバするモンを乗っけた丼飯」
「いろんなものがのってますね」
「ああ、刻んだオクラにトロロにひき割り納豆に漬け鮪に、生卵の黄身。あと刻み海苔な」

燐が作る料理はメフィストが与えてくれた菓子やジャンクフードといった類のものほど強烈な味ではないがいろんな味が絡み合った複雑な美味さがあって、いろんな味を一度に楽しみたい欲張りなアマイモンをすぐに虜にした。

「イタダキマース」

日本式の食事の挨拶も最近のお気に入りらしいアマイモンは両手を合わせてからマイ箸を構える。しかし箸に関してはまだ絶賛特訓中らしく、今はまだバッテン箸だ。
燐に言われた通り醤油をぐるっと一周半回しかけ、あとは好みで混ぜるようにと言われたのでアマイモンは自分の好みに従って盛大に掻き回す。すると丼の中でオクラの緑と鮪の赤と納豆の茶がトロロの白に飲み込まれ、その白に卵の黄身と刻み海苔の黒が混じりこむ。ぐりゅんぐりゅんぐりゅんと無表情で丼を掻き回すアマイモンの姿に燐の使い魔であるクロは大変怯えていたが、アマイモンの理解を深めつつある燐はアマイモンが上機嫌であることに気づいており至って平気な顔をしていた。

「どうだ?」

頬杖をついた燐は丼に直接口をつけかっ込むアマイモンを眺めながら感想を待ってコテンと首を傾げる。
それに対しアマイモンはもっしゃもっしゃと頬をリスのように膨らませて咀嚼してからゴッキュンと大きな音をたてて飲み込み、じっと燐の顔を見つめる。

「美味いです、すごく」

表情は変わらないがその言葉に偽りはない。その証拠に丼はすぐに空になった。

「そっか、良かった。バクダン焼きが好きならコレもいけるかなと思って作ったんだけど正解だったな」

燐は屈託なく笑ってアマイモンの顔に手を伸ばす。意図がわからずアマイモンが瞬きを一つすれば燐の指がちょんとアマイモンの口の端をつついた。

「ついてた。がっついて食うからだ」

燐も人のこと言えるほど上品な食べ方をする方ではないのだが、アマイモンは特に揚げ足もとらずに無言で燐の手の行方を目で追う。
すると燐の指先についたご飯粒はそのまま燐の口の中へと消えていき、アマイモンの目が軽く見開かれる。

「誘ってるんですか?」
「は?」

急にガタンと席をたって意味不明なことを言うアマイモンに今度は燐の目が見開かれる。席をたった時の衝撃で転がった丼にピシリとひびが入った。

「ちょっと待っててください。流石に納豆を食べた後すぐにキスというのは無粋ですよね。歯を磨いてきます」
「えっ、ちょっ……!?」

ハトが豆鉄砲をくらったような顔をしている燐を残してアマイモンは丼と椅子を転がしたままいずこかへ飛んで行った。

「ごちそうさまは燐を食べ終わってから言いますからー」

遠くから聞こえる呑気で不穏なアマイモンの言葉でようやく意図が掴めた燐もまたガタンと荒々しく席をたった。
顔を真っ赤にして震える拳を宙に振り上げ、行き場のない恥ずかしさを発散させるように叫ぶ。

「アマイモーンッ!!」

燐の叫びでひびから真っ二つにパリンと割れた丼がメフィストお気に入りの九谷焼のものであることを二人はまだ知らない。













※ミートソーススパゲティのおまけでやってたことをアマ燐にフォーカスして再挑戦したらどうにもうまくいかずメフィストを犠牲にしてみた、というお話。


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bkm
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