ミートソーススパゲティ(仲良し悪魔兄弟)

休日のお昼時。

メフィスト邸の厨房に包丁とまな板がぶつかり合うリズミカルな音が響く。
本来この厨房の支配者は「台所の王」(アマイモン命名)燐なのだが、現在タタタタタタッと聞いていて気持ちの良い音を立ててセロリや玉ねぎ、にんじんを華麗に刻んでいるのは割烹着を着たメフィストである。

「燐君、野菜はこれくらいでいいですか?」
「おお、いい感じ!じゃ、それそっちの鍋に入れてくれ」
「わかりました☆」

燐が指した鍋はオリーブオイルと刻んだニンニクをいれて火をかけたもの。食欲を誘う香ばしい香りがたつ鍋の中にメフィストが細かく刻んだ野菜を投入すれば鍋の中でパチパチと弾けるように踊り始める。野菜たちが落ち着きを取り戻し、少ししんなりしてきたところで燐がトマトペーストを投入する。

「あれ?トマトはそれだけでいいんですか?」
「今はな。後でトマト足すから大丈夫」

普段は未熟故頼りない姿もよく見せる弟が料理のときはとても頼もしい。
そんなことをメフィストが思いながら鍋の中の野菜とトマトペーストを混ぜ合わせている横で、燐は別のフライパンで挽肉を真剣に炒めていた。
挽肉がポロポロとばらけるまで炒めて塩コショウで下味をつける。そして肉の良い匂いが漂ってきたところでメフィストおススメの赤ワインを注いでくつくつ煮立たせるとアルコールの匂いがふわりと立ち昇り、燐の顔が少しだけ赤くなる。

「燐君はアルコールに弱いですねぇ」
「酔ってねぇ!それにちゃんとアルコールは飛ばすから大丈夫だ」

図星だったのか尻尾をピンと立たせて反論する燐の姿にメフィストは口元を手で隠して喉奥で笑う。
そんな二人のやりとりを見ていて面白くない者がいた。
破壊王故、使い終わった道具の片付けや缶切りといった調理に直接関わらない地味な役割を任されていたアマイモンである。
任された仕事を全てこなし、手持無沙汰になったアマイモンは燐の意識をこちらに向けようとぐいっと遠慮なく尻尾を引っ張った。

「ボクのこと、忘れてませんか?」
「痛たたたたっ、ちぎれるっつーの!忘れてねーよっ、ほら。アマイモンはそのトマト缶とローリエをこっちのフライパンの中身と一緒にメフィストの鍋に突っ込んでくれ」
「はーい。ばっしゃーん!」
「……」
「め、メフィスト……」

アマイモンが勢いよくトマト缶その他を投入したせいで鍋の目の前にいたメフィストの割烹着や顔に血飛沫のような赤い汁が飛び散った。
無言かつ無表情になったメフィストに燐は嫌な予感がして顔を引き攣らせるも、加害者である当のアマイモンは「わー、兄上お似合いです」なんてパチパチ拍手をしている。

「……死にたいか、アマイモン」
「スミマセンデシタ」
「最近のお前の謝罪はほんっとーに心がこもってないぞ」
「だって悪魔ですから」

まったく反省の色が無いアマイモンの様子についにメフィストの堪忍袋の緒が切れた。
パリーン、と落ちて割れる音と共に厨房に怒声が響く。

「アマイモーン!!!!」
「バカッ、喧嘩なら外でやれ、外で!!!!ぎゃー!オレの大切な鍋が!!!テメーら飯抜きにすっからな!?」

戦場と化した厨房から鍋を抱えて無事脱出した燐が、醤油を加えて味を調え更に煮詰めたミートソースを持って戻ってきたのはおよそ30分後。
メフィストもアマイモンも姿を消していた厨房は見るも無残な有様だったが、唯一テーブルだけは無傷だった。そしてその上には茹で上がったスパゲティが盛られた皿が一つと、『ごめんなさい』と簡潔に謝罪を述べた手紙が一枚乗っていて。
それを見た燐は苦笑して肩を竦めるとトロリとしたミートソースをスパゲティの上にたっぷり盛り付ける。

「おい、皿が後二つたりねーぞ。早く持って来い」

……器が大きい末っ子に今日も救われた二人の兄なのでした。


















おまけ

「アマイモン、口のまわりすげーことになってんぞ」
「?」
「燐君も人のこと言えませんよ」
「え?」

(ミートソースで汚れた口周りを互いに拭き合う仲良し兄弟に虚無界のお父さんがハンカチを噛みしめていたのはまた別のお話)



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