リクエストのもの/ぷく様へ

※連載設定、IF番外扱いになります。
※全2ページ

(連載未読の方へ簡易設定)
松岡凛と七瀬名前は両片想い。






──……俺は何をしているんだ。

凛の姿を見るや嬉しそうに駆け寄ってくる名前を見て、彼は後悔した。

場所は廃駅。二人には色々と思い出のある場所である。

会うつもりなど微塵もなかったのだ。だというのに、毎日名前のことが頭をちらつくせいで、こうして名前を呼び出してしまった。

“せめて遙に勝つまでは”と、確かにそう思っていたのに。


「ごめんね遅くなって!」

「いや……。悪いな、急に」

「ううん! ちょうど凛に……その、会いたいなーって思ってたから……! えへへ、嬉しいよ!」

「えっ、あ、そ、そうかよ……!」


名前のはにかんだ笑顔が直撃した凛は、不自然に顔を逸らし片手で口元を隠す。
その耳はほんのりと赤くなっている。
凛は地団駄でも踏みたい気分であった。

(……なに食ったらこんな、可愛く……、サバか……?)

時間的に、風呂から上がったばかりなのだろうか。
仄かに香るシャンプーの匂いとしっとりとした艶のある髪が名前をいつもより色っぽく見せていた。

名前の愛らしさにいまだひっそりと悶えている凛を、名前が不思議そうに見ながら隣へ腰かける。


「それで、どうしたの? なにか用事?」

「…………用事? そんなの……」


──会いたかったからに決まってる。

凛は、まるでそれが当たり前だとでも言うような、無意識に考えた自分のとろけきった思考に頭を抱えた。

辛うじて思いを声に出さなかったことは誉められるべきだろう。


「凛?」


うつむき、黙りこんでしまった凛を訝しげに見て、名前は肩にそっと手を伸ばす。


「ええと。具合が悪いなら、無理しなくても……」

「別に……っ、どこも悪くねえ!」

「ひゃあっ」


肩に掛かる直前、パッと顔をあげた凛が名前の柔らかな手を握った。凛の心境的には捕まえた、と言うのが正しいだろうか。

いま触られては何か、胸の奥から沸き立つ“ソレ”を抑えられなくなると思ったが故に名前を止めたのだが、結果的に凛から触りに行く形となってしまった。


「あの……凛?」


名前の頬に赤みがさす。

凛は、手を握ったまま固まってしまって動かない。


戸惑う名前はとりあえず、凛の手を握り返した。
手のひらの温かさにゆっくりと力が抜けていった凛の手は、名前がいたずら心で指を絡めさせると、優しくそれに答える。

名前と目が合えば、照れ臭そうに微笑まれた。


「……へへ、おっきいね」


もちろん手のことである。

……が、好意を持っている相手に、うっかり都合の良いように勘違いしたくなることを言われて黙っていられるほど、まだ凛は大人ではなかった。


「名前、お前……わざとか……?」


凛は結んだ手を、クッと自分の方へ引いた。バランスを崩した名前が凛の膝に手をつく。

名前は慌てて離れようとするが、凛はあいている手で名前の腰を抱きその距離をさらに縮めた。


「り、凛……っ」


弱々しい声だ。

名前は視線を泳がせて、赤い瞳から逃げようとする。

だがそれを許さない凛は腰にあった手を名前の後頭部へと置き、無理やりに顔を突き合わせた。


「こっち、見ろよ」

「やっ……は、恥ずかしい、から」

「いいから見ろって」

「…………うう」


名前がおずおずと凛を見、二人の視線がかみ合った。

遙の瑠璃色よりもずっと深い紺青の瞳に見つめられて、心が静まるような、体の奥から熱くなるような、不思議な感覚を覚える。

凛は、瞳の中の欲に溺れかけている男を、嘲るように笑った。

結局はこうなのだ。
水泳に集中するために名前と距離を置こうとしていたというのに、名前を切り捨てることが出来ない。



するりと名前の頬を撫で、扇情的な赤い唇に誘われる。
「今だけだから」と誰かに言い訳をしながら、深く口付けた。


「んうっ……ふ、あ……」


名前の甘い声が、凛をさらに興奮させる。

ぎゅうと凛の服を掴んでいる名前をやや強引に膝に乗せて、向かい合う形となった。


「……っは……名前……」


目をつむって大人しくキスを感受している名前を堪らず抱きしめ、舌を絡ませ合う。

お互いを想い合い恋人のようにキスをしたって、思いを伝えていない以上、この行為は“場の雰囲気に流されて”していることになる。
ここで、二人はあくまでも現在進行中で片想いであることを注意しておこう。


凛は名前に拒絶されることに怯えながら服の下の、ふくよかな胸へ手を伸ばした。


「きゃっ、り、凛……だめ……っ」

「………っ…嫌か?」


拒否を示す名前に、伸ばした手を引っ込める。
名前は瞳を潤ませて凛を見ていた。

さすがに無理強いが過ぎたか、と名前を撫でながら「悪かった」と漏らせば、名前が勢い良く抱きついてくる。


「や……ち、違くて……」

「名前?」

「…………も、もっと」


凛の首筋へ顔を埋めながら、消え入るように呟いた。











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